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第123話

「智秋さん。今夜ええよね? (はよ)う智秋さんを抱きとうて、ずっと我慢ならんかった……」  耳元で低く声が響いて、うなじに柔らかく唇が這わされると背筋に小さく電流が走った。まったく、いつの間に彼はこんなに熱を帯びた甘い言葉を囁くようになったのだろう。それも今ではそつなくこなしている標準語ではなく、懐かしい広島弁で。  航平が風呂に向かうべくその場を離れても、笹木は温かな感触の残るうなじを手のひらで覆って、体の火照りをやり過ごしていた。 *** 「――っ、はぁっ、う……、ああっ、あっ、ぁ……」  執拗に繰り返される抽挿に、また無理矢理に頂点に昇らされて喘ぐ声も掠れてくる。何度目かもわからない絶頂がきても、もう鈴口から溢れ出るものもなく、それでも後蕾の奥がわなないて航平の屹立をきつく喰い締めた。 「っ! くっ、智秋、さんっ」  航平の体がぶるりと震えて、力が抜けたように笹木に覆い被さってきた。はあはあとふたりで粗い息を調えて、やっと互いを求める狂おしい熱情が徐々に引き始めると、航平は笹木の体から離れてベッドを出て行った。  笹木も喉の渇きを覚えながらも仰向きに横たわったままで、ベッド脇のサイドテーブルの花瓶に生けられた白い花を眺めた。年に一度、自分の誕生日に航平から渡されるリコリスの花束は、こうして寝室とリビングに分けて飾っている。

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