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第1話
――お仲間と思って浮かれたのにさ。
襲ってやろうかと宣言したというのに、奥寺は困ったように目を細めるだけで慌てた仕草も見せない。身長差は頭一つ程あって、細いと評される尊より体格もいいのだから、逃げられると思っているのだろうが。
「奥寺さん、俺はマジなんですけど」
それは半分、冗談だった。奥寺は困った表情のままで首を横に振ると、静かに口を開く。
「俺と寝ても君は楽しめないと思う。俺は勃起不全だから」
聞き慣れない言葉に、尊は頭の中の知識を総動員してみると、聞きなれた言葉に変換できそうだった。
「え、インポ?」
「まあ、そういうことだ」
さらりとそんな衝撃告白をする奥寺を、尊はぼんやりと見つめた。
奥寺と初めて会ったのは三カ月前のことだ。前の仕事を辞めたばかりのとき、たまたま入ったカフェ「アンダーワールド」で食べたフレンチトーストがあまりに美味しく尊好みの味だったので、ちょうどアルバイト募集があると知ってすぐに応募した。
フロア担当だったので、尊の見目も影響したのか即決採用だったのは我ながらスゲエと思っている。面接をしたオーナー兼店長は歳の割にちゃらいが、同じフロア担当のお姉さん、有巣がしっかりと店内を仕切っているような印象だった。ちゃらい店長としっかり者のお姉さん、それから寡黙な厨房担当が奥寺、それがカフェのメンバーだ。
三か月も勤めていながら、奥寺とはあまり交流がないのだけれど、無愛想なわけではなく、ただ静かなだけなのだと知って印象は悪くなかった。有巣とはよく飲みに行くが、そのときなんかに有巣も奥寺をべた褒めしているからだ。
『奥寺さんって大人の魅力よねえ。べらべらくだらないこと喋らないのが素敵すぎる』
そんなことを言いながら、有巣は奥寺を褒めるが、尊はいつもそれに本心から頷いてきた。
――だって、本当に好みだし。
抱きたいなどと思ってしまうと仕事に差し支えるから、なるだけ不埒な妄想はしないようにしてきたのに、バーで見かけて理性が飛んでいってしまったのだ。誰かに取られる前にと、急いで声をかけ、すぐにホテルに連れ込んだというのに。
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