5 / 56
第1話
「君は何を食べる?」
奥寺はぱらぱらとパンフレットを捲りながら頁を尊に向けてくれた。わざとらしくない気遣いが格好いい。
「ん、俺はねえ、あ、フレンチがあるじゃん。フレンチとオムライス」
「フレンチトースト、好きなんだな。店でもよく食べてる」
「うん。店のは特別に美味いから」
奥寺も同じものをということだったので、フロントに連絡すると注文からそれほど待つことなく、オムライスとフレンチトーストが届けられた。見るからに冷凍食品なのは納得済みだ。ベッド側のローテーブルにそれらを置いて奥寺と向かい合う。
「いただきます」
不自然なほど形の整ったオムライスを口に運びながら、尊は気になっていたことを切りだした。
「奥寺さんって、女の子とやったことないの?」
「……食事時の話題としてはどうだろう」
「ごめん、でも他に共通の話題なくね?」
「そんなまっすぐな目で言われたら否定できないな。女の子は好きだし、経験はある」
「なんだ。女子相手に勃たないんならさ、男試したらーって言おうと思ったのに」
本当にゲイではないのか、と少しだけがっかりした。だったらどうしてインポなんだろうかと好奇心が動き出す。デリケートな話題だということは分かっているが、こんなにいい男なのに、ということが口惜しいのかもしれない。
「奥寺さん格好いいからモテるでしょ」
「そんなことはない。俺はつまらない男だ」
「まさか。あんなに美味いフレンチ作れる人がつまらないわけないじゃん。……このフレンチと全然違うわ、やっぱ」
クリームがふんだんに盛られたフレンチトーストはひたすらに甘かった。奥寺の作るものはふんわりと体中に広がっていくような優しい甘さで、勝手に頬が緩むくらい幸せな気分になるのだ。
「俺は断然、店のが好き」
まあ、それに惚れて働きだしたようなものなのだし。そこまでは言わないが、奥寺が黙ったままで嬉しそうに頬を緩めたのは、目の保養だった。
――か、っこいいわ、やっぱ。
ともだちにシェアしよう!