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第1話
こんな顔で微笑みかけられたら、インポだろうがなんだろうが女の子はいちころなんじゃないだろうか。それを言いかけたところで奥寺が口を開く。
「ありがとう。でもそれで誰かを守ることはできない。――俺はバツイチだし」
またも衝撃告白だ。こんな男を女の子は放っておくわけがないと思ったのは間違いではなかった。けれど、手放すなんて。
――もしかして、そこにインポの原因があるのかな。
だとすれば、ますますデリケートな話題で、尊が踏みこんではいけない領域だろう。興味本位で探ろうとしたことを少しばかり反省しながら、ふうん、と気のない相槌だけを打って、慌てて他の話題を探した。
食事を終えてしまえばあとは寝るくらいしかやることもない。ベッドは一つしかないので、何度も「襲わないから」と告げると、奥寺は不思議そうに首を傾げた。
「君の細腕で俺を襲うのか?」
「腕力だけがベッドの上で優位とは限らないでしょ」
「随分、大人だな」
吹き出すように笑った奥寺は、思いのほかあっさりと眠ってしまった。
――さっきの笑顔とか反則だろ。
いつも表情を表に出さず淡々としている顔しか見たことがなかったから、余計に笑顔が染みる。擬音にすればきゅんきゅんする。
「ヤバいヤバい」
これは職場の人で、ノンケで、勃起不全で、バツイチで、数え上げれば何重苦かもわからない相手なのだ。絶対に好きになんてなりたくない。好みの顔だから多少ときめくのは仕方ないが、目の保養だけで留めておかなければ痛い目に合うのは尊の方なのだということくらい、経験から知っている。仕事と恋を同時に失うのはごめんだ。
寝息をたてる奥寺の隣で背を向けながら、太い腕とか大きな手とか広い背中とか体まで好みだよチクショーと思ってしまったのは知らないふりで、眠りについた。
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