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第2話

 尊の家はとっくに通り過ぎている。歩き続ける奥寺を放っておけなくて並んでいるけれど、こんなことがこの大人のどんな役にたつというのか。白旗を上げたい気分だった。「尊はね、無神経なの」時折、友人達から言われることを「無神経くらいでちょうどいいの、俺は」と笑い飛ばしてきたことを誠心誠意謝りたい。無神経は駄目だ、人を傷つけて己も傷つける。  ――そっか、俺、謝らないと。  奥寺は大人だから無神経に踏み込まれても怒らないでいてくれるのだろう。もうこれ以上踏み込まないと宣言しようと口を開いたときだった。奥寺がぴたりと足をとめ、尊を見つめる。その目に怒りはない。 「こんな話、誰にもしたことがない。下元にもしないよ」  親友にもしない話を尊にしてくれた。深入りはやめようと決めたはずなのに、その事実が尊を喜ばせる。どう応えていいか考えているうちに奥寺は続けた。 「君と同じくらいの歳なんだ、子供」  そっと笑った奥寺の笑顔が、見たこともない程に綺麗で、でも寂しそうで、尊は心に掲げたはずの白旗が折れる音を聞いたような気がした。知らず、口走っていた。 「俺、奥寺さんの息子になるよ。奥寺さん、子供にしてあげたかったことあるでしょ、その気持ちをさ、なんていうか清算してあげたいよ、俺は」 「言っている意味が」 「息子ごっこしよう?」  答えなんてノーに決まっている。けれど、口から出てしまった提案を引っ込める気にはならず、尊はめいっぱいの笑顔で奥寺を見つめ、否定される前にと駆けだした。 「じゃあ俺帰ります、おやすみなさい!」  後ろから尊を呼ぶ奥寺の声がしたが、振り返らずに駆けた。  ――こんなん、駄目じゃん、俺、本気になってるじゃん。  報われるはずもないのに、という一人ツッコミは頭を振って追い出すと、尊は拳を握って覚悟を決めた。この恋に頭から突っ込んでいく覚悟を。

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