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第3話

◆  曇り空が残念ではあるけれど今日の目的地は室内だから助かった。待ち合わせまではまだ三十分もある。スマホの画面と目の前の道路を見比べては待ち人を思って、へらりと笑ってしまって、慌てて顔を伏せた。  ――やべ、俺、浮かれすぎじゃん。  それも仕方ない、今日は奥寺とデートなのだ。とはいっても、これは「息子ごっこ」の一つなのだが。  「息子ごっこ」などと言ってしまったからには、もう攻めるしかないと、尊はあれから随分奥寺を攻めた。仕事中は隙のない奥寺なので、仕事後に待ち伏せて口説いた。そのうち諦めたように奥寺は「わかったよ」と言ってくれたので、本音は「めんどくさい」くらいのことを思われているかもしれない。  それでも今日、約束を取り付けたのは我ながらよくやったと褒めてやりたい。  スマホから目を上げて奥寺の姿を探す。駅から繋がっているこのデパート前は待ち合わせの人が沢山いて、待っている心細さを忘れさせてくれる。人波を見つめながら、尊はぼんやりと思い出す。  尊が奥寺に提案した「息子ごっこ」は、奥寺が子供にしてあげたかったことを一緒にするというものだった。さすがに二十年余りを全て網羅するのは難しいので、五歳と十歳と十五歳と二十歳の息子にしてあげたかったことをすることになった。  奥寺もそれに納得してくれたので今日がある。今日は五歳の息子と行きたかった「ヒーローショー」を見に来たのだ。尊も小さい頃に母親と来たことがある。奥寺は何も知らないようだったので、一応のレクチャーはしておいた。  ――奥寺さん、DVD見てくるかなー。  あの奥寺が一人で子供向けヒーローDVDを見るかと思うとちょっと笑えてしまう。早く会いたくなった。

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