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第3話
奥寺は待ち合わせ十分前に姿を見せた。こんな早く来るなんて好印象しかない。
「ごめん、待たせたかな」
「大丈夫だよ。ヒーローショー十一時からだし」
「君に言われたとおり、DVDを見たんだが、最近のは完成度が高くて驚いたよ」
ちゃんと予習して来たのかと吹き出しそうになって、慌ててこらえる。見ろと言ったのは尊なのだ。
「ねー。CGとかばりばり使ってるし」
「ちゃんと人間ドラマがあって凄いな。大人のファンがいるのも分かる」
「そーなー。でもシンプルにアクション格好いいから子供も好きだよね」
敬語を使わなくていいと言ってくれたのは奥寺からだ。仕事中は敬語だから、こうやってタメ口で喋るのは未だ緊張する。
話しながら会場であるイベントスペースに向かうと、そこはもう親子連れでいっぱいだった。熱心な子は早くから来て前の席に座るらしい。そのパワーに圧倒されながら立ち見のスペースに陣取った。
「凄いな」
「ねー。皆嬉しそう」
男の子連れが多いかなあ、と会場を見渡す尊の隣で奥寺も辺りを見渡している。その目が優しい。その優しさの奥にある傷を思うと息がつまりそうになる。自分にできることなど何もないのだと思い知らされそうになるけれど、尊はこの恋に突っ込んでいく覚悟を決めたのだから、手を引く気にはならない。奥寺の袖を引っ張って、なるだけ満面の笑みを浮かべてみる。
「あのさ、終わったらタコヤキかアイス食いたい」
「そんな子供みたいなこと……ああ、うん、タコヤキ買おうか。アイスは冷たいだろう?」
「真冬でもアイスを食いたくなるのが子供ってもんだろ」
そうでなくても熱気がこもったこの会場では暑いくらいなのでちょうどいいに違いない。奥寺は困ったように小さく笑ってから尊の頭を軽く叩いた。
「仕方ないな、両方買おうか」
その笑顔が優しくて、尊はしばらく奥寺から目がはなせなくなってしまった。
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