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第3話

 大人になってから見るヒーローショーというのは思いのほか楽しかった。暗黙の了解というやつで口にしてはならない「中の人」のことや、ショーの運営のことに目がいって面白い。当の奥寺は純粋にショーを楽しんでいたので、良かったなあと思いつつもその素直さが可愛くて仕方がない。  約束どおりタコヤキとアイスを買ってもらって、フードコートで腰を下ろすと、奥寺がそっと目を細める。 「良くできていたな」 「ああ、凄いよね。アクションも子供騙しじゃなくてさ」 「決して広くない空間なのに。俳優さんも大変だね、こんな風に全国を回っているのか」 「あ、いや、それはさ、ほら、ショー担当の人と違うっていうか」  嬉しそうな奥寺に真実を伝えるのは可哀想かとも思ったから言葉を濁すと、すぐに気付いたのか奥寺はうつむいて小さく笑う。 「それもそうか」  その口調が恥ずかしそうで、尊はタコヤキお噛みしめながら叫び出すのを堪えるのに苦心した。  ――奥寺さん、可愛い、可愛いって!  こんな自分より二十近く年上の男に向かって失礼な感想だとは思うが恋心が抑えられない。奥寺には息子のように思えと言っておきながら欲望の目で見ている自分が、随分汚れた存在に思えるが、仕方ないものは仕方ない。 「奥寺さん、どうだった? 今日」 「うん? 楽しかったよ。君が誘ってくれなければ知らないことだったね、ありがとう」  たとえ社交辞令だったとしても尊は嬉しかった。思いを口走らないように気をつけながら何気ない風を装って口を開く。 「じゃあさ、次、どうする? 十歳だっけ」  十歳というと小学生だ。小学生と楽しめることは沢山ある気がするが、奥寺が何を選ぶのか楽しみでもあった。奥寺はうつむいたままでぼそりと呟く。 「本当にやるんだね」 「え?」  小さい声を聞き逃しそうで首を傾げる尊に、奥寺は何か意を決したような表情で顔をあげると、またぼそりと呟いた。 「キャッチボール」 「キャッチボール? ああ、なるほど、奥寺さん野球好きなんだ?」 「そうでもないが――息子とキャッチボールというのは俺ぐらいの歳の男にとって憧れ的なところがあって」 「そうなの?」 「……そんな映画が昔あったんだよ」  映画の影響でキャッチボールがしたいのだろうか。尊には何の映画かは分からないが、いつも冷静な奥寺のミーハーなところが見えたのは意外で、仕事では絶対見られない顔が見られたのはラッキーな気がする。 「おっけー、じゃあキャッチボールね。グローブ持ってる?」 「いや」 「じゃ、俺、実家漁ってみるわ。グローブあると思うし」  奥寺は恐縮したように小さく相槌を打って感謝を口にする。そんな一つ一つが嬉しくて舞いあがった尊は、奥寺の目に暗さが灯っていることにはまだ気付けずにいた。

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