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第4話

   キャッチボールはヒーローショーから二週間後だった。無事に実家でグローブとボールを見つけて懐かしい感触に頬を緩めながら待ち合わせの公園に向かうと、奥寺はもう来ていてベンチに腰かけていた。  最近、店長の要望で新メニューを考えているらしく、毎日遅くまで残っていることは知っている。少し疲れた顔をしていることは分かっていたから、今日は元気な顔にしてあげたかった。 「ごめん、お待たせです」 「ああ、悪いね、わざわざグローブまで」 「いいって。ほらこれ奥寺さんの。サイズ合わないかも」  グローブを受け取った奥寺は妙にぎこちなくグローブを右手に付けている。 「君は野球していたんだ?」 「中学でやめたけどね。奥寺さんは?」 「全然」 「だろうね。それ左手に付けるんだよね。もしかして、初めて?」 「いや、授業で少し」  それなのに子供とキャッチボールをしたかったのかと、映画の影響だという奥寺のミーハーさが可愛い。  子供でも届くような距離からキャッチボールを初めてみるが、予想どおり奥寺は上手くなかった。というより、下手だった。尊が投げたボールにあたふたする様子が普段の奥寺とは違いすぎて、笑うのは失礼だと分かっているのに笑いが殺せない。 「違うって、奥寺さん、手で捕りにいったら駄目なの、ボールが落ちてくる場所で待つんだよ」 「そんなこと、言っても、ああ、また」  慌てて捕りにいったボールがグローブの端に当たって転がっていく。ようやく拾ったボールを尊に戻すときも、ぎこちない。 「手首使って投げればいいんだよ」 「そんなこと、ああっ、また捕れない」

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