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第4話

 普段、尊から見れば恐ろしく器用で細かい作業だって淡々とこなしていく奥寺が、キャッチボールもまともにできない姿は想像外だった。あんなに美味しくて綺麗な料理が作れる奥寺の不器用なところは世界中に叫びたいほど、可愛い。それをぐっとこらえて、それからしばらく尊は奥寺の先生になった。一時間以上練習しただろうか。その頃には奥寺もなんとかキャッチボールをこなせるようになった。 「ああ、捕れた」 「凄い凄い、五回も続いたね」 「君、馬鹿にしてるだろう」 「そんな訳ないじゃん」  拗ねたような言い方に、とうとう堪えきれず吹き出してしまうと奥寺も楽しそうに声を上げて笑った。こんな笑顔を見るのは初めてで、見惚れてしまうのは許してほしい。渋くて格好いいから好きになったのだと思っていたけれど、可愛いところを見てしまうとその好きがもっと大きくなって勘弁してくれと思ってしまう。  ――駄目だって、俺、息子じゃん。  自分から言い出した息子ごっこなのだ、その責務くらいはちゃんと果たさねばならない。  しばらくキャッチーボールを続けてお互いにばてたところで奥寺が手を止めた。 「休まないか」 「そうだね、ジュースでも買ってくる」 「いや、持ってきているから、良かったら食べないか」  奥寺はそういうと、ベンチに置いていたカバンからサンドイッチバスケットと水筒を取りだした。卵サンドとハムサンド、それから暖かいコーヒーで一息つく。

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