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第5話

  プロ野球の本拠地ではないこの街で野球を見るといえばアマチュア野球のことだ。プロを目指す選手達で構成されたチームは地方リーグを戦ってスカウトの目を待っていたりもするので、試合のレベルは低くない。球場で試合を見るのは初めてだったから、尊もこの日を楽しみにしていた。  熱心なファンから少し離れたデイゲームの自由席はまったりとした時間が流れる不思議な空間だ。そのベンチに奥寺と並んで座っているのはもっと不思議な空気だった。 「ちょうど休みの日の試合でラッキーだったね」 「すまないな、休みの日まで」 「いや、俺が好きでやっていることだから」  好き、と口に出してしまって一瞬しまったと思ったが、奥寺は何も気にしていないようで安堵と共にちょっとだけがっくりくる。まったく意識されていないのは分かっているつもりなのだが、心のどこかで浅ましい欲が顔を出しそうになって、無理矢理閉じ込めた。  試合は白熱していたが、奥寺が身を動かす度に腕や肩が触れ合うのではないかと思ってしまって、集中力を欠いた。 「アマチュアでも面白いね」 「ん、そうだね。なんか、あのピッチャー来季はプロかもって噂とかあるらしいよ」  前もって勉強していた知識を披露すると、その度に奥寺が感心したように褒めてくれるはくすぐったかった。普段より近い距離で、なんでもない話をする、それが十五歳の息子と過ごしたい時間だったのかなあ、と感慨深く思うのは、自分にもこんな経験がないからだ。 「十五歳って、どんなだっけなあ」  独り言のようにこぼした言葉はそのまま消し去るつもりだったのだが、耳ざとい奥寺がこぼさずに拾い上げる。

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