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第6話

 支払いを終えた奥寺のあとから続いて店を出ると、三月の夜風が身に染みるように冷たい。奢ってくれたことに礼を言って早く帰りたかったが、奥寺に肩を掴まれて足を止めずにはいられなくなった。なんだろうと顔を上げる尊に、奥寺は思いもしないことを言いだす。 「あー。次の約束、しないのか?」 「次って……息子ごっこは、これで終わりです。今まですみません」  優しいこの人を苦しめるつもりなどなかったけれど、好きな人とデートしたいという自分の欲求だけは満たされてきてしまったのだ。どんな顔でまた二人で会う約束などできるのか。 「奥寺さんも、今まで俺に付き合ってくれてありがとうございました、奥寺さんじゃなくて俺が楽しんじゃったけど」  まっすぐに顔を見ていられなくなって、ふらふらと歩きだした尊の腕を、奥寺が引き寄せる。引き寄せられた勢いで背中が奥寺の胸にぶつかって、コート越しでは感じるはずもないぬくもりを感じて顔が熱くなった。 「危ないよ、人にぶつかる」 「あ、すみません」  ぶつかりそうなところを助けてくれたにしては、奥寺は尊の腕を離さない。背中に感じる奥寺の厚い胸の感触に耐えきれなくなって飛びのいたけれど、腕を掴んでいる手は離れなかった。 「あの?」 「次の約束をしたい」 「いや、だから息子ごっこは終わりって」 「息子としてなんて、見たことないよ。君と過ごすのは楽しい。二十近く年上の俺が言うのもおかしいと思うけど、普通に友人として過ごしたいだけだ、その、飲み友とかでいい」  奥寺の顔は真剣だった。気まずくなった優しさでそんなことを言っているのだろうと分かって、心の奥が跳ね上がるように歓喜するのを感じながら、尊はうつむいた。こんなことを言ってもらえるとは思わなかっただけに、無防備な心が欲を露わにしそうになって耐えるだけで精いっぱいだ。そんなこと知るはずのない奥寺が追い打ちをかけてくる。 「誰かといて、こんなに笑ったのは久しぶりな気がするんだ」

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