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第7話
見舞い、と渡されたそれは、いつだか美味しいと言った林檎のコンポートだった。
「わざわざ、作ってくれたんだ」
そして、言葉どおり真面目に尊のことを考えてくれたのだろう。なるだけ傷つけないように丁寧に言葉を選んで、受け入れられないと言われた。こんなに丁寧に振られたのは初めてだ。
コンポートを一口かじってその甘さに泣けてくる。
――俺の為に、色々考えたんだろうな。
負担にならないようにと身を引くつもりだったけれど、結局辛い思いをさせてしまったのかもしれない。
「俺、すげえ人好きになったな」
どうせ上手くいかない恋なら次に乗り換えた方が傷つかずにすむと、今までなら割り切ってこられたけれど、今回ばかりはそう簡単にいきそうにない。諦めようと決めた先から、何度も好きなんだと自覚してしまうのだから。
また店で、と言った奥寺の気持ちに応えたいと思った。恋情を殺して側にいるのは辛いけれど、それを奥寺が望むのならば尊はそうしたい、それが奥寺を好きだということなのだと。
次の日、元気に出勤した尊は皆に急な休みを謝ってから、こっそり奥寺に告げた。
「あの、俺、もう好きとか言わないから、またよろしくお願いします。あっ、奥寺さんが言ってた飲み友、まだ有効ですか?」
「――ああ、もちろん」
「よかった、じゃあ、また美味いとこ連れてってくださいね」
得意の笑顔を向けると奥寺も優しく微笑んでくれたから、この判断が間違っていないと、尊は強く頷いた。
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