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第8話
「はい、どうぞ」
差し出された茶碗を受け取って、尊はありがたくそれを頂戴した。
「う、っま。鯛、超美味い、出汁でてる」
「スーパーの刺身だから、尊君でも作れるよ」
「うーん、うん、やってみます」
鯛茶漬けを堪能しながら、ふと、この部屋の殺風景を思った。
――ここで奥寺さんは毎日過ごしてんだな。
物のない部屋で食事をして、寝て、起きて。想像すると寂しくなる。そんなの奥寺の好みなのだから尊がどうこういうことでは無いのは分かっているが、まるで奥寺が人生を楽しむことを拒否しているように思えてしまったからだ。
それもきっと、元妻と自分の子ではない息子への罪悪感から。
たまらず、声になった。
「あの、今度、うちでメシ食いませんか」
言ってから何を言っているのだろうとすぐに後悔したが、もう遅い。奥寺が首を傾げて微笑んでいる。
「君の家で?」
「あ、えーと、ほら、店の皆で、鍋とか」
「鍋か。何年も食べてないな」
「ね、ほら、いいでしょ。俺、土鍋持ってるんで」
一人暮らしを始めた頃はよく鍋をしては騒いだので、セット一式が揃っているのだ。二人だけだと気を遣うかもしれないと「店の皆」をだしにしたのもよかったのか、奥寺はすんなりと頷いた。
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