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第8話
◇
鍋の日はあっさりと決まった。
「え、鍋? やるやる、尊ん家でやんの? 狭くない?」
「掃除しときます」
有巣が明るく乗ってきてくれたので、ことはとんとん拍子に進んだ。元々騒がしいことの好きな下元はすぐに乗ってきたし、一番乗りそうにない奥寺の参加は決まっているのだから、あとは準備するだけだ。
「尊、何鍋にするんだ?」
「あー、水炊きとか?」
「じゃ、いいカニ持ってくわ」
さすがオーナー素敵、と有巣が黄色い声を出すので、きっと豪華な鍋になるに違いないと予感できる。奥寺がそっと
「じゃあ、俺は美味しいポン酢を持っていく」
囁いてくれたのも嬉しかった。
実行力のある下元の指揮のもと、鍋会は三日後の定休日前夜に決まった。
必死で掃除をしたけれど、奥寺がこの部屋に入ると思うと、今更ながらに緊張してくる。材料は下元と有巣が調達してくれるらしく、尊は部屋の準備をして待つのが仕事だ。奥寺は料理係らしく、ちゃんと役割分担ができているのが面白い。
一番に来たのは奥寺だった。
「あれ、店長と有巣さんは?」
「買い物してくるって。お邪魔します」
奥寺が自分の部屋にいる、そう自覚するだけでテンションと緊張がかわるがわるやってきては尊の胸をしめつけていく。1DKの部屋は趣味のフィギュアや漫画で溢れているが、これでも必死に掃除をしたつもりだ。万年出しっぱなしのコタツには鍋の準備をしてある。興味深そうに部屋を見渡した奥寺が穏やかな笑みを浮かべた。
「うん、二十歳の男の子って感じだな」
「二十一です」
「ああ、ごめん。君の好きなものが沢山あって、面白いよ」
普段あまり子供扱いされないのに今日は歳の差を意識されたようで、憮然とする尊に奥寺は面白そうに笑う。
「普段しっかりしてるから、男の子っぽいところが可愛いって言ってるだけだよ」
――可愛い? 俺が?
それこそ子供扱いなのだろうが、悪い気はしない。それに可愛いというなら、飾ってあるロボットのプラモデルに夢中になっている奥寺の方が可愛い。
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