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第8話

「これ知らないなあ、新型?」 「そう。このシリーズカッコいいんです。映画にもなったんだけど、良かったですよ」 「見たいかもしれない」 「貸しますよ、俺、盤買ったから」  テレビ台の下をごそごそと漁ると、隣にしゃがみこんだ奥寺がそっと口を開いた。 「口調、タメぐちでいいのに」 「いや、それは、ほら、だって」  タメぐちは息子ごっこのとき限定だったはずで、職場ではちゃんと丁寧語にしていた。息子ごっこは終わったわけで、飲み友達というポジションに移動しても調子に乗らないよう、なるだけ丁寧語にしていたのにそんな寂しそうな目をされると堪えているものが吹き出しそうになる。   ――俺が好きだって言ったの、もう過去のことだと思ってるんだろうなあ。  それは尊が己の口でそう奥寺に告げたことでもあるのだけれど、本当は少しだって恋心はおさまっていない。そう簡単なものではないことくらい、大人だったら分かりそうなものなのに、奥寺は素で尊の言葉をうのみにしていそうだ。  ――あー、辛いわ。  けれど、そうすると決めたのは尊なのだから仕方がない。なるだけ恋心が騒がないうちに見つけたDVDを奥寺に渡して、離れた。  そのタイミングを見計らったように下元と有巣が来て、尊を助けた。 「さ、シェフ、料理頼むな」  下元に背中を叩かれて奥寺がキッチンに立つ隣に有巣が立つ。 「尊君、ボウル借りられるか?」 「あー、好きに使ってください。俺も手伝い――」 「お前は俺の相手」

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