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第8話
手伝いにキッチンに向かおうとした尊の手を掴んで引き寄せた下元は、もうビール缶の蓋を開けている。それを渡されると逆らえず、おとなしく下元の隣に座った。
「お前、プラモとか作るんだな」
「あー、一人っ子だからですかね、小さいときからやってて」
「ああ、なるほどな」
なんでもない話をしながらも、下元の表情は珍しく固かった。どうしたのかと思えば、ちらと奥寺を見た後で、声をひそめてくる。
「なあ、あいつと、何かあったのか」
「何かって、別に」
「あいつがお前の話をするんだよ、嬉しそうに。本当、なんでそんな仲良くなった?」
きっかけの話をするには尊の秘密を話さねばならず、ごまかして笑うと、下元は更に声をひそめた。
「お前、もしかしてあいつの事情、知ってるか?」
「事情って……ちょっとは」
「そうか、だから心開いてんのかな」
下元は奥寺の友人なのだから、全て知っているのだろう。そんな人に尊のことを話したりするのかと思うと、顔が緩んで仕方がない。
――しかも、嬉しそうにって?
ちらと見た奥寺は有巣と談笑しながら鍋の準備をしていて、自分家のキッチンに立ってくれている背中の眩しさに眩暈がしそうになった。
「あいつがこんな集まりに顔出すのって、すげえ珍しいんだ。ありがとな、声かけてくれて」
いつも自信に満ち足りて胸をはっているような下元に頭を下げられて、慌てて尊も頭を下げる。
「いえ、思いつきでやってるんで。付き合ってくれて店長こそありがとうございます」
「ちょくちょく飲みにいってるだろ、これからも頼むな」
「俺が付き合ってもらってんですけどね」
「いや、あいつ、楽しそうだから。あいつはもう、幸せになって欲しいんだけどな」
二人して奥寺の背中を見つめると、視線に気付いたのか奥寺が振り返って控え目に笑った。
「そろそろ、準備できるけど」
「おっし、運んでやる」
下元は腰も軽く立ちあがったが、尊はしばらく立ち上がれそうにない。下元から聞いたことが何度も頭を巡っては喜びを運んでくるからだ。
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