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第8話

 ――俺、奥寺さんの役にたってんのかな。  それはなにごとにも替えられない幸福だった。  くだらない話をしながら時間を過ごす鍋会は予想どおり楽しかった。元々口数の多い有巣と下元が盛り上げて尊もそれにのっかり、奥寺が控え目に笑う。水炊きは美味しかったし、最後は雑炊にしたので食いつくした、といった感じで準備された食材なに一つ残らなかった。それに奥寺は満足そうだった。 「さて、私は帰りますか。彼氏が心配するので」  有巣がそう切り出すと、下元が送るから、と腰を上げ、鍋会は御開きになった。奥寺も一緒に帰るかと思えば、片づけをしてくれるらしく、残ると言った。  下元と有巣を見送ってしまえば、さっきまでの騒がしい空間が嘘のように寂しくなる。そういえば、この瞬間が嫌で、鍋会をしなくなったんだと思いだしたが、今は一人じゃない。そっと隣を見ると、奥寺も尊を見ていて、思わず見つめ合って笑った。 「うるさかったですねえ」 「楽しかったよ。ありがとう、誘ってくれて」 「たまにはいいでしょ、こういうのも」 「君の家はいいね、なんか、温かい」 「……いつでも、来ていいですよ?」  あの整頓されきった物のない部屋で一人で食べるごはんじゃなく。奥寺は相槌を打ちながらも、手早く片づけを始めた。  ――終わったら帰っちゃうのか。  当然なのだけれど、その瞬間を思うと腹の底が冷えていくようで、尊は段々と笑えなくなった。  手際のいい奥寺がいれば片づけなどすぐに終わってしまう。 「じゃあ、俺もこれで」  奥寺が言いだした瞬間に服の裾を握ってしまったのは、無意識だった。 「尊君?」 「あ、いや、なんでも、ない。うん、片づけまで、ありがとうございました」  慌てて手を離したけれど、遅かったらしい。奥寺が困ったように首を傾げている。ただでさえ子供扱いされたのに、寂しいから帰らないでなどと言ったら、どれだけ子供と思われるか分からない。懸命に笑顔をふりしぼったが、奥寺は尊の頭に手をおいて、微笑んでいる。 「仕方ないな。少しだけ、飲もうか」  見透かされた。羞恥で頬が熱くなるのが分かって、居心地は最悪なのに、踊りだす心は止められなかった。

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