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第8話
ついでだし、と貸すつもりだったDVDを見ながらだらだらと飲んでいると、奥寺の口数が減っていく。ふと見た先で、奥寺が座ったまま目を閉じていることに気付いて、少し自己嫌悪に陥る。今日も一日カフェのキッチンに立っていた奥寺なのだ、早く休みたかったに違いない。
――帰りたかったんだろうな。
それを我儘でひきとめてしまった。起こそうかと思ったが、せっかく気持ちよさそうに寝ているし、少しだけ、と隣に座り、肩に頭を乗せさせる。温かさが嬉しい。すぐ側で寝息を立てる薄めの唇を見つめてしまって慌てて頭を振る。バレないうちに離れようと、肩に乗せていた頭をはずそうとしたときだった。奥寺の手が尊の肩にまわり、そのまま仰向けに寝転ばされる。まるで奥寺に腕枕をされる形になって、思わず悲鳴が漏れた。
「ご、ごめんなさい!」
けれど起きたのかと思った奥寺はそのまま寝息を立てている。心底の安堵で息を吐いて、眠り続ける顔から眼鏡を取ってあげると、無意識なのか奥寺の口元が微笑んだ。何かいい夢でも見ているのだろうか。その場所に、尊はいるのだろうか。そんなことを考えると胸が苦しくなる。
精悍な顔を見下ろすと、恋心のうずきを耐えきれなくなった。
――ごめん、やっぱ、俺、駄目だ。
そっと顔を寄せて、唇を重ねる。柔らかさと温かさに心臓が飛び跳ねるけれど、それは襲い来る罪悪感に流されてしまった。
どうしてこんなに好きになったのだろう。最初から上手くいくはずなどないと分かっていたのに。
「ごめんなさい、やっぱり、好きなんだ」
盗んだキスは流れ落ちた涙の苦い味になった。
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