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第9話

 ――俺、すっげえ馬鹿みたいじゃねえ?  そんな尊を側においていた奥寺も大層恥ずかしかっただろうと思うと顔も上げられなくなる。 「そうですね、可愛いです」  奥寺が看護師と何か話しているのは聞こえたが、もう、早くこの場から消えたかった。  会計をすませてようやく病院から出た尊に奥寺は珍しく我儘を言いだした。家まで送ると言ったのだが、尊の家に来たいというのだ。 「でも、今日は安静でしょ? 家の方がいいんじゃないですか?」 「今日は君の温かい部屋がいい。駄目か?」  駄目じゃないけれど、逆に恐縮してしまう。これは奥寺に心配されているのではないかと。 「あー、あの、俺、大丈夫なんで、奥寺さんもその、俺のことは気にしないで欲しいな、とか」 「そうか。我儘を言って悪かった。今日はあの部屋に戻る気になれなかったんだけどな」 「本当に?」 「ああ」 「――もてなし、できませんけど」 「寝かせてくれたらいいよ」  珍しく茶目っ気のように片目をつぶる奥寺から慌てて顔を背けたのは、その顔があまりに可愛かったからだ。  ――かわいいいい!  世界中に叫びたい気持ちをぐっとこらえて、尊は奥寺の前を歩いた。  途中、晩ごはんに、とコンビニに寄ったのだが、一緒に買い物をしていると、まるでデートみたいだと顔が熱くなった。  帰る道中、ずっとどぎまぎしていたから、家に返ったときにはすっかり疲れ切っていた。

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