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第4話
タクシーを降りて。
足元が覚束ない俺を海音 が部屋まで運んでくれた。
『コウ先輩…大丈夫?
階段あと少しだからしっかりして。』
『んー…海音 ごめんっ!
俺飲み過ぎっ…うーっ気持ち悪っ;』
玄関の鍵を開けると靴を脱ぐのももどかしく1LDKの部屋のソファーにどっと倒れ込む。
『はいコウ先輩…水飲んで。』
海音 が冷蔵庫からペットボトルの冷たい水を出して渡してくれる。
それをゴクゴクと飲み干してやっと一息ついた。
『ぷはーっ…ありがと海音 …
ちょっと治まってきたよぉ…』
『まだ無理しない方がいいよ。』
『迷惑かけてほんとごめんねっ!
なんかいい気分で飲めてこんなに酔っちゃってさ…。
カッコ悪いとこ見せちゃったな…。』
『…いいよ。
俺もすげぇ嬉しかったし…。』
そう言ってソファーの下に膝を付いた海音 が俺の胸に顔を埋めてギュッと抱きしめてきた。
えっ?えっ?
なになに..どーしたのっ!?
『…今日は泊まってもいい?
コウ先輩…///』
ドキドキしていると抱きついたまま俺を見上げた海音 が照れくさそうにそう言った。
『い…いいけどっ///
な…なんで?
なんか変だよ海音 …どしたの?』
うるさい胸の鼓動を隠すように慌ててそう答える俺。
『え…だってコウ先輩…
俺のこと彼女にしたいって…愛してるって…』
えっ。
ええっ!?
ええええええええっ!!!!!!
言ったよっ!
言ったけどぉぉぉ~っ!!!!!
『あれ、本気だったのっ!?』
『…冗談…だったの?』
思わず声を上げるとカアっと真っ赤になった海音 が泣きそうに顔を歪めた。
なななんだよその乙女な反応は…!?
え、ちょっと待っ…はぁぁっ?!
俺もなんて言っていいかわからなくて…2人の間に流れる気まずい沈黙…
しばらくすると重い空気を散らすように海音 が口を開いた。
『ごめんコウ先輩…俺の勘違い…。
嫌な思いさせてごめん…』
『えっと…あの…
か、海音 …?』
『今の、忘れて…ごめん!』
消え入りそうな声でそう言うと、唇を噛んで立ち上がった海音 は上着を掴んでバタバタと部屋を出て行ってしまった。
すっかり酔いが醒めた俺はソファーに凭れたままただただ茫然としていた。
…海音 が俺を?
えっと。
好きってことだよね?
俺男だけど。
でも海音 の恋愛対象ってことだよね?
突然の出来事に全然頭が付いていかない。
いつから俺の事そんな風に見てたんだろ...?
いつも一緒にいたのに全然気が付かなかったよ。
でも…だけど、だとしたら。
どうしよう…俺、たぶん物凄く海音 を傷つけた。
酔っていたとはいえ 本気で俺を思ってくれるあいつの気持ちを踏みにじった。
自己嫌悪になりつつも、それでも気持ち悪いとか嫌だとか思ってない自分に気付く。
…嫌じゃない。
むしろちょっと嬉しい。
なんだよ…俺の気持ち、どうなってんの?
あまりの急展開に自分が海音 をどう思っているのか、どうしたいのかもよくわからなくなって…
俺はもやもやした気持ちのまま一人、落ち着かない週末を過ごしたのだった。
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