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第6話
なんとか書類を仕上げると時計はもう10時を回ってて…慌てて片付けて帰ろうとすると廊下でバッタリと同じ部署の女の子と鉢合わせした。
部署内でもけっこう可愛いって評判の子だ。
『あら…白井さん!?
こんばんは!』
『こんな時間にどうしたの?』
『私は友達と食事してたんですけど忘れ物しちゃって取りに来たんです。
白井さんこそ珍しいですね、お一人なんて…熊谷 さんは?』
『あー…今日は一緒じゃないんだよ…』
聞かれたく無い事を聞かれて思わずボゾボソと口籠る。
『そうなんですか?
いつもご一緒だからてっきり…じゃあ今日は私と帰りませんか?
いつもお二人一緒だからお誘いしにくくて…そうだ!お食事まだなら軽くどこかへ寄りましょうよ!』
『あ、ああ…』
目をキラキラさせる彼女に曖昧な返事をして一緒にエレベーターで下に降りるとエントランスに向かう。
彼女は俺の腕に手を添えるとペラペラ早口で喋り続けている。
安っぽい香水の匂いが鼻について気分が悪い。
上目遣いで媚びたような笑顔を見せる彼女に嫌悪感しか湧いてこない。
..なんなんだよ俺っ…恋人が欲しかったんじゃないの?
明らかに好意を持たれてるってわかるのに全然嬉しくない。
胸も全然弾まない。
さっきから会話もつまんないし…むしろ面倒くさいし鬱陶しい。
無邪気な海音 の顔ばかりが脳裏に浮かんで…ふぅ、と小さく溜息をついた。
二人でいつも馬鹿みたいにはしゃいでた時間が俺にとっても大切な時間だったんだって…今更ながらに気付いた。
今まで当たり前に近くにあり過ぎて気付かなかったけど..海音 のクールで冷たい顔の裏に潜む、俺の前だけで見せる子供みたいな笑顔のギャップが可愛くて、そして俺はそれが嬉しかったんだ。
胸の辺りが締め付けられるように痛いよ。
一階に降りてガラス張りのエントランスまで来ると外に見える人影に驚いて思わず足を止めた。
『海音 …っ!?』
ガラスの向こうに寒そうにジャケットの襟を合わせて立っている海音 がいた。
女の子と並んでる俺を見ると、ギュッと唇を噛んでクルリと向きを変え早足でその場から立ち去ろうとする。
『海音 !待って!』
『白井さん?
どうし...』
『ごめん、実は終わってから熊谷 とご飯行く約束してて…悪いな。
遅いから気をつけて帰って!』
怪訝そうな顔で俺を見る彼女にそれだけ言うと、俺は海音 の後を追って走り出した。
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