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第7話
『待てってば!海音 !』
しばらく走って追いついた俺は、海音 の腕を掴んでそのまま人気の無さそうなビルの脇に連れ込んだ。
海音 を壁に押し付けて顔の両側にドンッと手をついて逃げられないように腕の中に挟み込む。
『..なんだよ。
あの娘とデートじゃなかったのかよ?
前からコウ先輩のこと好きだって言ってた娘じゃん。』
『そうなの?
俺そんなの知らないしデートする気もないよ?』
『嘘だ。』
『嘘じゃないよ。
それより海音 こそなんでこんな時間までいたの?
俺を待っててくれたの?』
『だって…残業…
一人で大丈夫か心配だったし…さ…』
プイッと横を向いたままぶっきらぼうに答える海音。
必死に表情を隠しているけど、耳まで真っ赤に染まった顔が今の彼の気持ちをそっと俺に教えてくれる。
それが可愛くて可愛くて..俺の中にも抑えきれない熱い想いが湧き上がってくる。
『この間はごめんね?
俺酔ってたし急だったからびっくりして..お前を傷つけるつもりじゃなかったんだ。』
『..いいよ。
俺もなんか早とちりして…ごめん。
俺、入社式の日にコウ先輩が声掛けてくれてから…ずっとコウ先輩のこと好きだったから嬉しくて本気にしちゃってた…』
『えっ…そうなのっ!?』
なにそれっ!
全然知らなかったよ…
掴んだ腕からトクリトクリと優しい鼓動が伝わってくる。
それがまるで俺の心の扉を叩くように胸の奥まで響いてきて、なんとも言えない甘酸っぱい想いが溢れ出す。
『あ..の、俺さっ、さっきの女の子に誘われた時より、今の方がずっと嬉しいっ!
今日も一人で居残りしながら海音 と一緒の時のことばっかり思い出してたんだよね。
ね、俺も海音 のこと好きかもっ!』
『コウ先輩は可愛い女の子が好きなんだろ?
…俺、男だよ?』
『うん、知ってるよ。』
『…俺、身体もデカイし目つき悪くて可愛げないし…』
『そんな事ない…可愛いよ。』
『ほんとに…ほんとにコウ先輩も俺の事好き…?
『うん、たぶん!』
『はあぁ?』
ムッとした表情の海音 が俺を見上げている。
『たぶんって何だよ…意味わかんねー…』
『確かめたいから…今から海音 にキスするね?』
『はっ!?
な、なんでそうなるんだよっ///』
ジタバタ抵抗するのを無視してちゅっと唇にキスをすると、びっくりしたのか海音 が大人しくなったから、少し屈んで今度はゆっくりと優しいキスを落とす。
『ふっ..あ、コウ先輩...』
ぽってりと厚ぼったい唇は熱を帯びて素直に俺を受け入れてくれる。
クチュリと音を立てて差し込んだ舌を絡ませれば、途端に甘い吐息が漏れてゾクゾクと身体の芯が痺れるような感覚に自分でも驚きを隠せない。
...うん
すっごいドキドキする。
こういうのアリ、だよ。
大アリ!
『海音 …好きだよ。
俺、海音 が大好き!』
『…俺…も…///』
少し涙声で言葉を詰まらせた海音 が俺の胸に顔を埋めた。
海音 …
クールでカッコよくて仕事もバリバリこなすパーフェクトな男
でも俺の前では..甘えん坊の可愛い可愛いツンデレちゃん
もうただの先輩後輩なんかじゃない。
俺達…恋人同士になったんだね。
『もう泣くなよ海音 。』
『…泣いてねーって。』
『ふふ…お前ほんと俺の前では可愛いのな。』
『………///』
『寒くなってきたからそろそろ帰るか?』
『もう…少し…』
『海音 ?』
『もう少しだけコウ先輩とこうしてたい。
だって…もし朝目が覚めてこれが夢だったら…俺…』
背中に回された手にギュッ…って力が籠って、俺の鼻先を海音 の柔らかな髪がふわりと擽 った。
『…夢じゃないよ。
俺、ちゃんと海音 が好きだよ。』
『でも…』
『じゃあ今からうち来る?
昨日のリベンジ。
今日は俺んちに泊まってけばいいよ。』
『コウ先輩…?』
『もう海音 は俺の恋人なんだろ?
だったら遠慮なんてしなくていいじゃん。』
『あ…お、れ……』
『来るのか来ないのかどっちだ?』
『行くっ…!』
勢いよく俺を見上げた海音 は涙に濡れた瞳で一瞬俺を見つめた後…そう言って嬉しそうにクシャクシャの笑顔で笑った。
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