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第10話
EP.2
『海音のキモチ』
*海音 サイドのお話です
『どうしたの?
何か嫌なことあった?』
入社式の後、自分の配属部署の場所がわからずにウロウロしていた俺に声を掛けてくれたのがコウ先輩だった。
『あ…いえ、営業二課の場所がわからなくて困ってるんですけど…。』
『あ!困ってたのか!
怖い顔してたからなんかムカついてるのかと思ったよ〜』
あははー…なんて笑われて正直俺はちょっと傷付いた。
無愛想で目付きの悪い俺はいつも何かしら怒ってると思われて周りから敬遠される事が多く、それが1番のコンプレックスだったからだ。
『すみません…俺目付き悪くて…』
俯いたままぶっきらぼうにそう答えるとコウ先輩はハッとしたように俺を見ると申し訳なさそうに眉を下げた。
『気にしてたのか…ごめんな。
そうだな、目付き悪いっていうよりクールでカッコ良すぎって感じだよ。
けっこう遠くから君の姿が見えてて…すげえイケメンで羨ましいなって思ったんだ。』
『カッコいい…イケメン…』
『今年の新入社員?
俺は白井幸之助、営業二課へようこそ!
俺もそこの所属だから案内するよ。
これからよろしくねっ!』
『俺っ…俺は熊谷 って言います。熊谷 海音 …
海音 は海の音って書きます。』
『海音 …か。
綺麗な名前だね…君のイメージにぴったり合ってる。』
コウ先輩はそう言ってポンポンと俺の頭を撫でるとにっこり優しく笑ってくれた。
ドキン、と心臓が跳ね上がる。
182cmの俺が見上げる長身
今時の綺麗に整った顔
見た目のイメージとは違う低くて甘い声
そして何より…
俺に向けられたまるで太陽みたいにキラキラした眩しい笑顔に…俺は一目で恋に落ちたんだ。
思えば物心付いた頃から俺は女の子に全く興味が無かった。
気になる子も、ドキドキと胸がときめくのもいつも全部男。
最初はなんでだろうくらいに思っていたのだが小学生の高学年になる頃には自分がゲイだということを自分でも理解していた。
このご時世、いつかはそれを理解してくれる恋人が出来るだろうとタカをくくっていたのだが…
運がいいのか悪いのか、頭脳明晰スポーツ万能。
容姿にも恵まれモテたくもないのに女子からは告白三昧。
鬱陶しいから片っ端から断っていると、調子に乗ってるとか言われて男子からは総スカン。
密かに好意を寄せていた相手からも嫌われ暗黒の中学時代を送った俺は当然の如く高校は男子校へ進学。
男子校は男同士の付き合いも多いと聞いて密かに期待していたのに…
『ぼ、僕…海音君となら…』
『お兄様になって下さい!』
元来口下手な性格とぶっきらぼうな物言い、そしてキツめの強面が災いしてか、俺に抱かれたい男ばかりが列をなす。
『そんな簡単に身体許すようなこと言うんじゃねーよ…
もっと自分を大切にしろよ。』
『か、海音君…///』
後々面倒が無いように、そんな言葉で奴らを突き放してもまたそれが素敵だと抱かれたい男が増える。
くっそぉぉぉぉぉっ…!
お前らいい加減にしやがれ…
俺はタチじゃねぇ…頭のてっぺんからつま先までネコなんだよ!
抱くんじゃなくて抱かれたいんだっつーの!!!
恥ずかしいから外ではカッコつけてるけど、ほんとは可愛い物とか大好きだし甘えさせてくれる彼氏が欲しいんだってば!
大学に進学してもその悪夢は続き、この歳までオナニーしか知らない童貞(処女)男子。
情けないったらありゃしねぇ…
高校の時1度だけゲイだと噂があったバスケ部の先輩に告白した事がある。
『は?お前ネコだったのかよ…
気持ちは嬉しいけど悪りぃな、お前みたいなゴツゴツ可愛くないのは俺、抱く気にならないんだよなぁ。
悪いこと言わないから今からタチに転向した方が身の為だぞ?』
一生分の勇気を使い果たす勢いで頑張ったのに、返ってきたのはそれを全部木っ端微塵 にする悲しい言葉だった。
わかってる
俺は可愛くなんて無い
守ってやりたいとか、優しく抱き締めたいとか、俺のどこを探したってそんな風に思わせる要素は出てこないんだ。
でもさ、恋をするのは…諦めなくていいだろ?
好きになるのは自由なんだ。
例えそれが片想いでも…誰かを愛する気持ちだけは持ってたい。
いつかきっと…って
俺だけの王子様が現れる日が来るって…信じるくらいは…いいだろ?
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