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第11話
『おはよ〜海音っ!
昨日はありがとな!』
俺の勤務先は自社ビルを構える一流企業で、出勤時間で混み合うエレベーターの中朝陽よりも眩しい笑顔のコウ先輩が俺の隣に乗り込んで来た。
『お前が手伝ってくれなかったら確実に終電逃してたよな…ほんといつも感謝!』
『コウ先輩ミス多過ぎ。
あんた仕事する気ねぇだろ?』
『あはっ…やる気はあるんだけどねぇ。
なーんか上手くいかないんだよな…』
『今夜は飯奢ってよ。
それでチャラにしてやる。』
『うんっ!
海音が食べたい物ご馳走するよ。
帰りまでに考えといてね!』
『おお…///』
コウ先輩は性格もいいしビジュアルも完璧だけど、致命的に仕事が出来ない。
毎日のようにあれやこれやミスしては課長の金森さんに呼ばれて叱られてる。
そんなんで何でこの会社に入れたのか未だに謎だけど、そのおかげで俺はコウ先輩に出会えた訳だしさ。
仕事を手伝う口実で終業後2人きりで居られるのも嬉しいし、御礼にってご飯に連れてってもらったりしていい感じで先輩後輩の関係を深める事が出来るから、コウ先輩には悪いけど俺的にはラッキーって思ってる。
朝からこうして会えた事にニヤニヤしていると…ガコン、とエレベーターが揺れて次の階でまた何人か乗り込んで来るから狭いエレベーターの中がさらに密集して押し潰されそうになる。
『この時間すげー混むよなぁ…
海音、大丈夫か?』
後ろから押されてぴったりと密着した上にコウ先輩の顔が俺の目の前に…!
グォォォォォッ…
なんだこれチックショーっ…!
近い…顔近いって…!!!
ドッドッドッって心臓が和太鼓打つみたいに脈打って息が出来ない。
クッソォォォ…睫毛長げぇな、おいっ///
肌もスベスベじゃねぇか…
今日もクソカッコよくて吐きそうだぞ…バカヤローっ!
『お、おう…
俺は大丈夫に決まってんだろ。』
心臓が口から出そうになったのを辛 うじて飲み込んで、何でも無いようにそう答えた。
『そう?でも顔赤いぞ?
熱でもあるの?』
コツン…って音がしてコウ先輩のおでこが俺のおでこに重ねられた。
ウギャァァァァァァッ…
何しやがんだ…嬉しいじゃねぇか…この野郎っ…!
(訳:嬉しい…もっとして)
だから顔近いって…無理っ…
もぉ無理だっての…///
鼻血を抑えるのに精一杯だから…マジで!
『…人多過ぎて暑いだけだから。
子供じゃないんだから放っといてよ。』
『あ…ごめん!
辛そうだったからつい…』
コウ先輩の申し訳無さそうな顔にしまった…と、慌てて取り繕 う俺。
『べ、別に!
謝んなくていいし!
そ、その…心配してくれてありがと…』
顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったけど…なんとかそれだけ口にした。
『ぷっ…ふふ…可愛いなぁ海音は。』
『かっ、可愛くなんかっ…///』
『そういうとこ、俺けっこう好きかも。』
クスクスと優しい顔で笑うコウ先輩に俺の胸はきゅーん…と切ない音を立てる。
" 可愛い "
コウ先輩にとってはきっと、何の意味もなく言ったありふれた会話だったかもしれないけれど、俺にとっては宝物みたいにキラキラした心を震わせるその言葉に涙が出そうになった。
心の底から嬉しくて…
また…コウ先輩を好きになった。
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