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第14話

『うわぁーっ! なにこれ、めっちゃ美味しい!』 運ばれてきた料理はどれもこれもめっちゃ美味しくて、コウ先輩が歓喜の声を上げる。 『ワインも美味し…♡ 肉の味付けにぴったり合ってるしさ、けっこうボリュームあるしコスパ高いよねっ!』 『自家製のサングリアもお勧めって書いてあるよ。 頼んでみる?コウ先輩。』 『頼む頼む! この店当たりだったよね。 ピザも追加しよー!』 美味しい料理に気を良くしたのかいつもよりテンション高めなコウ先輩はご機嫌で次々とワインのボトルを空けていく。 酔いが回るにつれてコウ先輩の白い肌がほんのり赤く染まって…なんだかすごく色っぽいから目のやり場に困ってしまう。 『海音も飲んで! さっきから俺ばっかりじゃん…ほら!』 『…そ、そうだな、うん。』 酔っ払ったコウ先輩は凄まじく可愛いくて…なんだか落ち込んでいるのがバカらしくなってきた。 グダグダ悪い方に考えるのは俺の悪い癖だ。 悩んだってどうせどうにもならないんだからさ… 気持ちを切り替える様に俺もワインに手を伸ばす。 どんな関係でも今は2人で居られる時間を大切にしなくちゃ勿体無いよな。 ここはポジティブシンキングだ。 他愛ない話で盛り上がりながら3本目のワインが空になった頃に、コウ先輩の目がとろりと()わって頭がユラユラと揺れ始める。 『おい、大丈夫? 飲みすぎだよコウ先輩。』 『らいじょうぶ~楽しいよ~♡♡♡ それにしてもカップルばっかだよねっ。 海音っていっつも俺とご飯食べてるけど彼女とかいないのぉっ~?』 呂律(ろれつ)が回らない口で俺にしな()れかかるコウ先輩。 『別にいないし、欲しくないし。』 『えーっ!もったいないっ! 海音は社内でも女の子にすっごい人気なのにぃ~っ! 冷たいから近寄りがたいみたいだけどさ、みんな隠れてキャーキャー言ってるよぉ〜』 『女なんて面倒臭いだけだよ。  いらね。』 ここぞとばかりに自分の本心を口にする。 陰でギャーギャー騒いでんのも知ってるし、怖いもの知らずなのか告白してくるバカ女も山程いるさ。 でも俺はコウ先輩ひと筋だからいつも一刀両断に切り捨ててやる。 後から後から寄ってきて鬱陶しいし、なんなら嫌ってくれた方がマシだからな。 『さすが海音! めっちゃカッコいい! 俺なんて顔だけの残念男なんて言われて彼女もできやしないのにぃ~』 『は?知らないだけだろ…あんただって裏でけっこう…』 そう言いかけてハッと口を(つぐ)んだ。 そうだよ…知らないだけ。 だけとわざわざ教えてやる必要はない。 モテないと思ってるならそう思わせておけばいい。 そうして他の女なんかに興味を持たずに、俺の事だけを見てくれればいい。 そんな事を考えているといるといよいよ酔いが回ったコウ先輩が俺を抱き寄せ、さも良い事を思い付いたという様に目を輝かせた。 『そうだ!彼女いらないから海音が恋人になってよ♡ 俺達けっこうお似合いだと思うんだよねぇ~』 『はあぁ?』 『ねね、いいでしょ? 俺、けっこう尽くすタイプだよ? どお?今ならお買い得だよっww』 え 今なんて… なんて…言った…? 俺の聞き違いじゃ無いよね…? こ、恋人…恋人になってって言った…? 『バ、バーゲンセールかよ…』 『あは、海音限定のセールだよ。 買って買って〜♡』 冗談かもしれないと… 間に受けないようにそう返してもコウ先輩は俺の肩に手を回したまま尚も畳み掛けてくる。 『…いいの?』 一瞬にして周りから音が消えて… カラカラに乾いた喉でようやくそれだけ言った。 『いいよいいよ♡ ってか、俺の恋人になってくれるのぉ?』 『…いいよ。』 『やったぁー♡♡♡』 半信半疑で答えたのに、コウ先輩は嬉しそうに人目もはばからず俺を抱き締めた。 嘘…だろ? なんで急に……? コウ先輩も俺の事好きでいてくれたの? 『あの…コウ先輩…///』 『海音〜♡♡♡ 俺らも今日はイチャつこうよ! なんたって恋人同士なんだからなっ』 『え、うん…///』 『周りのバカップルに俺らもラブラブだって見せてやろうぜ!』 『そ、そうだな…あっ///』 耳元でチュッ…とリップ音がして柔らかいものが頬に触れた。 今の…ココココウ先輩の… カアッと顔が熱くなって身体から力が抜けていく。 いつもの勢いは何処へやら…隠してたヘタレな俺が顔を出す。 本気…なのかな? 人間は酔っ払うと本性が出るって言うけど、コウ先輩もそれで…? 本当に…?本当に…? 『はい、海音。 あーんして♡♡♡』 フォークに刺したチキンが俺の口元に差し出された。 『えっ、あっ、待って…/// 自分で食べれるからっ…』 『彼氏の言う事聞けよっほらっ』 ーーーー彼氏… 『うん…コウ先輩///』 パクリとチキンを頬張る俺を見てコウ先輩が嬉しそうに笑う。 『海音は可愛いなぁ…愛してるよ♡』 コウ先…輩… 『俺、も、好き…大好き…』 言葉にしたら涙が溢れそうになった。 こんな日が来るなんて思ってもみなかったから 愛し愛される日が来るなんて思ってなかったから もう1人で泣かなくていいんだ 俺を(あたた)めてくれる人が出来たんだ 口の中がしょっぱいよ… 好物のチキンはいくら噛んでも涙の味しかしなかった でも、心の中は甘くて優しい想いで満たされている 『俺にも食べさせてよ海音。』 『あ、うん…///』 それから上機嫌ではしゃいでるコウ先輩とひとしきり盛り上がっていたけれど、いい加減酔ってフラフラになって来たから心配になって店からタクシーを呼んで貰った。 『俺の海音ーっ好きだぞぉ〜! 愛してるよぉ~♡♡♡』 『はいはい、もうわかったから静かにしろって…。 コウ先輩飲み過ぎだよ。ほら、帰るぞ』 俺に抱きついて離れようとしないコウ先輩をタクシーに押し込んで、今夜は帰らないと覚悟を決めて運転手に先輩の家の住所を告げた。

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