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三年前 – 前編 –

 僕はその足で、近くのカフェに入った。朝食セットを頼み、用意された水を一口。  窓からスーツを着た男女やラフな格好をした男女が道を歩く姿を見て、僕は思った。 「僕は何をしているんだろう」  なぜ僕が、毎晩違う好きでも無い男に抱かれているのかというと、今から三年前に遡る。  僕の実家は、関東で三本の指に入るほどの、百年ほどの歴史と伝統のある着物屋なのだ。僕は幼少期の頃から、着物を普段から着用し、外出をする時はもちろん、家に居る時も着物を着用していた。  しかし、小学生に上がり数年が経った頃、同学年の男子数名に「お前男なのに着物なんか着て、女みてぇだなっ!」と、着物を馬鹿にされ、胸が痛くなった。  着物と一つにくくっても、着物には女着物と男着物という物が存在する。当時から僕は男着物を着用していたにも関わらず、当時は着物と言えば美しい女性、という固定概念が存在しており、この様に馬鹿にされたのだ。  この事を母に相談するも、「そんな事気にしなければ良いの」の一言だけ。  気にするなと言われても、思春期になってもその事は言われ続け、好きだった着物は、見るのも『着物』という言葉も嫌いになっていった。  そして、高校卒業を機に、僕は家を飛び出した。その時は、溜めていたお年玉やお小遣いなどもあり、漫画喫茶やネットカフェで日々を過ごしていた。  今では、実家がどうしているかも何も知らないし、知りたくもない。  しかし、バイトもしていなかった僕は、収入源があるわけでもないので、お金は減る一方。家を出てから二ヶ月が過ぎた頃、お金も底をつき、どうしようかと思っていた時、フラフラとハチ公像の前を通りかかると、若い女性が高そうなスーツを着た男性に声をかけられ、すぐに腰を腕を回され、ホテル街へと姿を消していったところを目撃したのだ。 「これだ…」  しかし、勇気があるわけもなく、ウロウロしていると「待ち合わせ?。それとも、待ち人?」 と、背の高い渋めの細めの眼鏡をかけた男性に声をかけられた。  『待ち人』という言葉を初めて聞き、困惑していると男性は「待ち人なら、俺はどうかな」と、外見に合った声で微笑みを向けてきた。 僕はすぐにこの男がどういう意味で言っているのかを理解した。そして、こう思った。 「今を逃したら、僕はここまま餓死するだけだ」  この際、男だろうが関係ない。と、自分に言い聞かせ、恐怖感に押しつぶされそうになりながらも、「お願いします」と、小さくうつむきながら言い、そのまま男に連れられるがままにホテルに入った。そこには、知らない世界が広がっていた。喜ぶ男女もいれば、どこか気まずい男女もいる。そして、僕ら以外にも男同士がいたことに、驚きを感じたことを良く覚えている。 どこかに旅行に行ったとしても、必ず旅館に泊まるため、ホテル自体に入ることが初めてで、辺りを見渡していると「田舎から来たの?」と、男に言われた。突然の質問で、戸惑いを隠せきれなかった僕の反応を見て、「まぁ、どこ出身でも構わないけどね。行こうか」優しく微笑み、そのまま男について行き、エレベーターに乗った。  初めは恥ずかしさと恐怖感が溢れ出て、ベッドに横並びで座っているだけなのに涙を流し、男を驚かせてしまった。 僕の顔を見て、微笑みを向け、そのままゆっくり押し倒され、言われるがままに服を脱ぎ、ディープなキスを初めて交わした後、体を冷たいけどどこか温かい手のひらで、身体中を優しくさすり、温かい舌で、身体中をゆっくりと舐めた。こんな感覚は人生で初めてだった。恥ずかしさと体の火照りのせいでもう、頭が回らなくなってきていた。そのまま、優しく抱かれた。これが初めてだった僕は、すぐに絶頂に達し、気絶をしてしまった。

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