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温かみ。そして…

「…っ」目を覚ますと、毛布がかかっていた。店長の優しさをまた感じてしまった。きっと、店長が僕の客だったとするならば、僕は好きになってしまっていただろう。  壁掛け時計を確認すると、針は八時前を指していた。目の前にあるテーブルの上にメモとペンを見つけ、ペンを手に取った。 [毛布ありがとうございました。仕事に行ってきます。碧]と置手紙を残し、裏口から醜く染まった東京の街へと出た。  ハチ公像前に着いたのは、八時ニ十分を少し過ぎた頃。 「今日はどんな人かな…」なんて思いながら、客が来るのをいつも座っている石段で待った。  客を待ち続けて、四十分くらいだろうか。地面にいた蟻の行列を観察していた頃、「藍君?」聞き覚えのある声がした。衝撃のあまり、一瞬固まってしまったが、すぐに顔を上げると、そこには、三年間待ち続けた橘さんの姿があった。 「たち、ばなさん…」 三年間の積もり積もった想いが一気に溢れて、大粒の涙が何度もなんども地面に落ちた。触れたい想いが強くなり、その大きな胸へと飛び込んだ。 「っ。…ちょっと場所移そうか」そのまま、橘さんは僕の手を引き、僕は止まることを知らない涙を拭いながら、橘さんに連れられるがままに歩いた。  横断歩道で信号が青になるのを待っていると、そっと僕が着ていたパーカーのフードを被せてくれた。それは、泣いている僕の姿を隠そうとしたのか、むせび泣く男と一緒にいるのが嫌で少しでも隠したかったのかは分からないが、僕は前者だと思うことにした。

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