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複雑な気持ち

 現在時刻は、午前十二時九分。ホテルで気持ちを落ち着かせていると、気がつくと二時間が経っていた。  ようやくベッドから下り、リュックに入れていた服に着替え、そのまま部屋を出た。  受付のおじさんに聞くと、支払いは日向さんがしてくれていたみたいだ。僕はそのままホテルを出た。  そして、僕は何も考えずに東京の街を歩いていた。  気が付くと、店長の店の前に立っていた。  カランカランと、安心のベルが鳴る。 「おうっ、いらっしゃい。二日連続とは、珍しいな」  この声を聞くと、安心してまた泣きそうになってしまう。その気持ちを必死にこらえ、店長に橘さんのことを話すことにした。 「あのさ、橘さんに昨日会ったんだ…」動きもしない、カウンター席の隅に置かれたフクロウの置物に視線を落とした。 「良かったじゃんっ。…って言いてぇとこだけど、なんかあったんだよな。その感じからして」店長は、キッチンというのだろうか、バーテンダーがいつも立ち、酒を作る場所から僕の座るカウンター席へとやって来て、隣の席に座る。 「言ってみ」 「…橘さんって双子だったんだって、三年前の橘さんは美月さんで、昨日の橘さんは日向さんなんだって…。知らなかったからさ、昨日会って泣いちゃってさ、日向さん言いにくくなって、そのまま…、ホテル行ったんだ…」  自分の無様さに押しつぶされそうになり、うつむきながら話し、それを店長はしっかり聞いてくれた。 「そうか。で、碧はどうすんの。これから」 「実はさ、今日の二時に美月さんが待ってるんだって…カフェに」 「…行かねぇの?」 「行きたいけど、そこに居たのが日向さんだったら、どうしようって思って…」  そして、店長は僕のうつむく横顔を見て「じゃあ、行けばいいじゃん。そこで、日向さんの方だったら、金玉蹴りつけて帰ってこい」  衝撃の言葉を聞き、少し笑みがこぼれた。「出来ないよそんなの」 「じゃあ、俺も行こうか?。付添人としてさ」 「えっ」反応と共に、店長の顔を見る。そこには、微笑む店長の顔があった。 「二時だろ?。待ち合わせ場所ってどこ?、ここから遠いか?」と、来る前提で話を進めている。そりゃ、来てくれた方が僕は安心するが、本当にこれでいいのだろうか。本来は一人で行くものだと思うのだが。 「『ル・ドルン』って店、店長も知ってるんじゃない?」 「あ〜、あのイケメンカフェか」と、少し頭を上下させる。そして僕は「そう」と答えた。  そのカフェは、店長の店から少し離れだ場所にあり、車で片道三十分くらいだろう。店長の愛車に乗り込み、僕は助手席に座った。日はまだサンサンと照らし、助手席は暑い。店長はサングラスをかけ、意気揚々のハンドルを回している。  車内には、店長が好きなジャズが流れている。トランペットやサックスなどの管楽器が奏でる、どこか色気のある曲は、店長の影響で僕も好きになった。  そして、ジャズを聴くこと約三十分。現在時刻は、午後一時十二分。約五十分も早くカフェに着いてしまった。

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