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【見夏編】第4話

本当に珍しかったし、俺自身びっくりしたけど、悪い気はしなかったししぶしぶ承諾する。 「何かあった? ゲームして遊ぶ?モ○ハンとか」 「親と喧嘩しててさー…ほんとに困っちゃうよね。 気持ちの整理ができるまでゲームしたい。 あと俺ドラ○エ派」 「はいはい。 風呂から上がったら朝ごはん食べようか」 北城の母親は確か公務員だったはず…父親は俺のおかげで捕まっているけども。 仲が良いと割りと有名で、喧嘩するなんて珍しいし、さっき寂しそうだったのはもしかしてこれが原因なのかも。 朝ごはんを簡単に済ませ、北城が鞄の中からゲームソフトを取り出す……最初から泊まるつもりだったんじゃないか。 学生らしいチョイスというか、けっこう可愛らしいデザインで、北城の好みが分かる。 「それ、8年前くらいに流行ったRPG?」 「うん。けっこう可愛い感じでしょ。 小学生くらいに買って、もう一度やりたくなったんだ」 小学生くらいに買ったのなら、妥当といえる可愛さだろう。 「うげぇ……このミッションクリアできねぇ……」 「先生初心者だから分かんない……」 「えっとね、ここはこのボタン……」 重なるように、北城の手と体温が、俺に触れていく。 その体温が予想以上に高くて驚いた上に、ちょっと昨日の余韻が残ってくらくらした。 この体温を失う日が来るなんて今は考えられないけど……いつか離すから。 だって二人とも互いの道を、進まなきゃいけないから。 「先生」 「ん…?」 「また暗い顔してる」 そう言って北城は俺を抱き締める。 何度目の抱擁? 嫌とも思わずかといって十分に好きになれず、俺もその体温にすがっている。 これじゃあまるで彼が俺を離れさせないようにしてるみたいじゃないか。 生き甲斐のように。 * * * 「理人」 とある日の放課後、親友であり幼馴染みである同期の教師・相馬秋斗に話しかけられた。 「なに?秋斗」 「……ちょっとな」 含みのある言葉を発せられると、例え何気ない会話だとしても、気になってしまう。 笑顔を取り繕って接しようと試みると、秋斗はその笑顔を消すように口を開く。 「北城って、何か隠し事してるか?」 「え?」 「普通科の北城。 一番接するのがお前だから知ってるかと思って」 ──心当たりはある、といってもそれは俺と彼の秘密。 ついにバレてしまったかと危機感を持つが、俺に責めずに質問してきたということは、希望を持ってもいい。 もしかして、父親が強姦魔ということがバレてしまったか、はたまた俺は無関係の知らないことか。 でも彼が俺に隠し事なんてする必要も無いはずだ。 何せ、四六時中一緒にいるものだから。 「……何かあったのか?」 「……」 いつもクールな秋斗がそんな風に俯かれたら対応に困ってしまうどころか、これ以上踏み込みづらい。 ようやく口を開いた時、後ろからとんっと肩を叩かれた、北城だった。 「先生、俺の教室に忘れ物」 「あ、ありがとう……」 「どういたしまして。……相馬先生もさよなら」 一瞬北城の目に憎悪の雰囲気が感じられた。 その目は明らかに秋斗に向けられているもので、怖くて、何よりも冷たかった。 それはあからさまだったため秋斗も気づいたようで、二人の間に何かあったことを思わせる。 まるでそこの無い闇のようで、深くて、手が出せない。 きっと俺が関わってはいけないだろうということを思わせるうちは、彼と普通にセフレでいた方がいいと感じた。 それにしてもここ最近の北城の様子はおかしい。 前から寂しそうに抱き締めてきたり、そして今日だ、異様な変化を感じる。 ……原因は何なんだろう? 俺──…?いや、まさか……そんな。

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