5 / 27

【見夏編】第5話

* * * その日の夜、俺は夢を見た……北城のことを考えていたせいか、夢にまで彼が出てきた。 『見夏先生、俺寂しいんだ』 『どうして……?』 『……俺のことを本当に想ってくれてるの、先生だけかもしれないって、時より怖くなるだ』 そう言ってふわりとすっぽり彼の胸に埋まるようにして、抱き締められる。 夢でも高い体温、心地よい感触、高い身長故に見上げるようにしているから少しドキドキする。 男同士──…それも重なって、まるで女の子にでもなったような夢心地な気分に陥る。 けど北城の様子はそうではない。 『先生だけは、俺から離れてくれないよね?』 俺はその質問に──…答えられなかった。 * * * アラームの音で目覚め、また壊れるような虚しさが残った時、朝なんだと気づく。 隣に北城はいない、なぜかそれだけで夢のことを思い出して、どっと疲れに襲われる。 けど学校には行かなくてはならない──…俺の行動は意に反して出掛ける準備を始め、そしていつもの場所へと向かっていた。 「おはよう理人。……お前ちょっと疲れてないか?」 「うん、まあその……色々あって」 「お前も大変だな~…、まあ教師は立ちっぱなしだし、その分疲れやすいよな」 「何かあればエナジードリンク分けてね」 「了解」 秋斗と会話を交わしていたその時、秋斗の方に一人の生徒が近づいているのに気がついた。 その生徒は優等生ということで有名な仁科逞で、北城と絶対に関わらないであろう人で、何より純粋で可愛いという印象がある。 ──! ──俺なんで、北城のこと知らず知らず考えてるんだろ……。 「秋斗先生、その……風邪引いたので保健室に行きます」 「待って、俺も着いていく」 「え、いや、……悪いですよ。 一人で行けます」 「あのなぁ……逞はもうちょっと甘えてもいいんだぞ?現にふらふらだし」 ──? 俺はちょっとした違和感を感じた。 それは自惚れかもしれないけど、仁科は絶対に先生のことは名字で呼ぶはずなのだ、そっちの方が礼儀が正しいって彼自身が言っていた。 けど仁科だけではなく、名字で呼ぶ秋斗も呼び捨て……珍しいな。 二人で並んでる姿を見ると本当にカップルみたいだ、優等生とクール教師。 仁科がいい感じに身長が低いから本当にそう見える、実際北城の方が背が高くて、俺達はそう見えないけども。 「恋人ねー…」 幸い学園祭の準備で慌ただしいため、職員室には俺だけが残り、ぽつりとそう呟く。 しかしその呟きは聞かれていたようで、後ろにはにやにやした北城が、学園祭で使う看板を持ったまま突っ立っている。 「……見夏先生、恋人欲しいんだ、そっか」 「い、今のはポロッと出て……!」 「顔が赤いから信じませーん。 言い訳はきかないよ」 「信じろって……」 「……無理」 学園祭の看板は実に良く出来ていて、北城の器用さが目に見えていて、文句の付け所が無い。 それどころかもう手を加えなくてもいいくらい、本当に良く、精巧にできている。 「こういうの得意だから頑張っちゃったんだー、我ながらによく出来てるでしょ」 「……天才!」 「照れるなー。先生、もっと誉めて」 「集客率百パーセント」 「やった」 ──この調子で気合い入れて授業に出てくれれば完璧なのに。 彼のもったいないところを考えた時、ふと北城が俺の瞳をじっと見つめてこう呟く。 「先生っさ、ジンクスって信じる?」 「ジンクス……学園祭の?」 「そ。俺は信じてるから聞きたかっただけ」

ともだちにシェアしよう!