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【見夏編】第5話
* * *
その日の夜、俺は夢を見た……北城のことを考えていたせいか、夢にまで彼が出てきた。
『見夏先生、俺寂しいんだ』
『どうして……?』
『……俺のことを本当に想ってくれてるの、先生だけかもしれないって、時より怖くなるだ』
そう言ってふわりとすっぽり彼の胸に埋まるようにして、抱き締められる。
夢でも高い体温、心地よい感触、高い身長故に見上げるようにしているから少しドキドキする。
男同士──…それも重なって、まるで女の子にでもなったような夢心地な気分に陥る。
けど北城の様子はそうではない。
『先生だけは、俺から離れてくれないよね?』
俺はその質問に──…答えられなかった。
* * *
アラームの音で目覚め、また壊れるような虚しさが残った時、朝なんだと気づく。
隣に北城はいない、なぜかそれだけで夢のことを思い出して、どっと疲れに襲われる。
けど学校には行かなくてはならない──…俺の行動は意に反して出掛ける準備を始め、そしていつもの場所へと向かっていた。
「おはよう理人。……お前ちょっと疲れてないか?」
「うん、まあその……色々あって」
「お前も大変だな~…、まあ教師は立ちっぱなしだし、その分疲れやすいよな」
「何かあればエナジードリンク分けてね」
「了解」
秋斗と会話を交わしていたその時、秋斗の方に一人の生徒が近づいているのに気がついた。
その生徒は優等生ということで有名な仁科逞で、北城と絶対に関わらないであろう人で、何より純粋で可愛いという印象がある。
──!
──俺なんで、北城のこと知らず知らず考えてるんだろ……。
「秋斗先生、その……風邪引いたので保健室に行きます」
「待って、俺も着いていく」
「え、いや、……悪いですよ。
一人で行けます」
「あのなぁ……逞はもうちょっと甘えてもいいんだぞ?現にふらふらだし」
──?
俺はちょっとした違和感を感じた。
それは自惚れかもしれないけど、仁科は絶対に先生のことは名字で呼ぶはずなのだ、そっちの方が礼儀が正しいって彼自身が言っていた。
けど仁科だけではなく、名字で呼ぶ秋斗も呼び捨て……珍しいな。
二人で並んでる姿を見ると本当にカップルみたいだ、優等生とクール教師。
仁科がいい感じに身長が低いから本当にそう見える、実際北城の方が背が高くて、俺達はそう見えないけども。
「恋人ねー…」
幸い学園祭の準備で慌ただしいため、職員室には俺だけが残り、ぽつりとそう呟く。
しかしその呟きは聞かれていたようで、後ろにはにやにやした北城が、学園祭で使う看板を持ったまま突っ立っている。
「……見夏先生、恋人欲しいんだ、そっか」
「い、今のはポロッと出て……!」
「顔が赤いから信じませーん。
言い訳はきかないよ」
「信じろって……」
「……無理」
学園祭の看板は実に良く出来ていて、北城の器用さが目に見えていて、文句の付け所が無い。
それどころかもう手を加えなくてもいいくらい、本当に良く、精巧にできている。
「こういうの得意だから頑張っちゃったんだー、我ながらによく出来てるでしょ」
「……天才!」
「照れるなー。先生、もっと誉めて」
「集客率百パーセント」
「やった」
──この調子で気合い入れて授業に出てくれれば完璧なのに。
彼のもったいないところを考えた時、ふと北城が俺の瞳をじっと見つめてこう呟く。
「先生っさ、ジンクスって信じる?」
「ジンクス……学園祭の?」
「そ。俺は信じてるから聞きたかっただけ」
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