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【見夏編】第12話
「見夏先生いる?」
俺の願いが届いたのか、保健室に来たのは千草先生ではなく、北城。
急な展開にドキドキして、いや授業以外にこんなに早く会うなんて思わなくて、どこかでボロが出てしまいそう。
時任といえば北城が来た瞬間きっと睨み付けた。
……まあ北城がアンクレットを拾わなければこんなことにはならなかったんだろうけど、俺は感謝してるつもり。
「あ……いる」
「……分かったならとっとと連れてけば?」
相変わらず口は悪い。
鋭い目付きも加わって怖さ百倍だ。
「よかったー、いた」
「……何か用か?」
「んー、ちょっとね」
保健室近くのトイレに連れ込まれ、そのままぎゅっと抱き締められる。
生憎突然の抱擁には慣れないため、上ずった声が出てしまった。
「あ、大丈夫?先生」
「……だ、大丈夫」
大丈夫な訳がない。
現に俺の心拍数は驚くほどに跳ね上がっていて、驚くほどに顔が熱い。
それはきっと、意識をしているから。
「なんだろ……」
ぽつりぽつりと話始める北城。
寂しげな雰囲気を含んでいて、昨日の文化祭のことを思い返してしまう。
「先生が元気出るようにって抱き締めてたのに、俺が元気づけられてたみたい」
「……」
──俺は北城が好きだから抱き締められるのはいいけど、仁科が好きなら抱き締めない方がいいんじゃない?
そう出そうになり……慌てて下を向く。
でも少なからず俺も、北城が抱き締めてくれるおかげで元気出てるよ。
……だから俺よりも暗い顔しないでよ。
ますます仁科に嫉妬するから。
「……好き」
思わずそのままの気持ちが漏れた。
けど北城は抱き締める行為のことを言ってるんだと捉えて、そっかと呟く。
北城が俺のことを最初から好きだったら。
俺が北城に一目惚れしていたら。
……あり得ないほど簡単な話だった筈なのに。
「先生」
「……?」
「……ありがと、あと、ごめん……」
北城が言ったその2つの言葉は何を指しているのか、俺には理解できずにいた。
ねぇ北城、好きだよ。
セックスだけじゃなく恋人のあれやこれやもしてみたいんだよ。
振り向かせるから、待ってて。
* * *
保健室に戻ると、すでに千草先生が待っていた。
まだ北城に抱き締められた余韻が残っていて、ドキドキしている。
そんな真っ只中だった為何故かテンションが上がり、俺は時任が要求した作戦を否定することなく飲み込んだ。
「放課後仁科くんはよく図書室に行きますから、どうにか連れ出さなくてはなりませんね。相馬先生と一緒に納得させる方が百パーセント返してくれますから」
「そう。そこであんたなわけ。
用があるっていって連れ出してよ」
仁科と時任は喧嘩中の為直接は接触できない。
いや近づいたらダメなくらいかなり激しい喧嘩だったらしい……それも身体に傷が残るくらいの。
一体何があったんだと思ったが、どっちも悪いみたいな感じらしく、謝れないという。
「連れ出さずにここで言えって言われる可能性は?」
「正直言ってありますね……なんせ図書室に通うのは仁科くんただ一人ですから」
「……保険の為に千草先生置く?」
「そうですね、行きましょう」
まず、仁科を連れ出す為に俺が図書室に行く。
大事な用があると言って連れ出し相馬先生と合流させる。
「相馬先生を連れ出すのが案外一番難しいのでは……?」
「仁科が怪我した!千草先生いないし助けてくれ!て俺が伝えに行くから大丈夫でしょ」
それだと秋斗は全速力で走るのでは……?
「いや時任くんは病気で走れないでしょう。
事前に相馬先生に特定の場所を伝えましょう。見夏先生は相馬先生が来る前に仁科くんをその場所にいさせてください」
「分かりました。なら場所は職員室から遠い、図書室から近い中庭にしましょう」
「りょーかい、見夏センセ」
こうして念密にあらゆるプランを立て、納得の行く方向を考える。
念の為に千草先生と時任、どちらともと連絡先を交換し、チャットでやりとりをすることで情報をわけあう。
しかし最悪、仁科も秋斗もいない場合が一番怖い。
それだけは……運の勝負だ。
けれどもその予感は意外な形で的中してしまう。
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