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【デート編】第25話

* * * 上機嫌で家に帰ると、母はダイニンテーブルに伏せるように寝ていて、周りはアルコールの缶で埋め尽くされている。 その缶を処理するのが、俺の仕事だ。 散らばった洗濯物、洗い終わっていない皿の数々……堕落した生活ぶりには、俺も呆れるところがある。 母は、仕事の休みの日になるといつもこんな感じだ……──11年前から。 俺が6歳で小さかった、けどそんなことは関係なしに、しっかりと覚えている。 父が逮捕された。 そのせいで母はまるで進み続けていた時計の針が止まるかのように、精神が壊れていった。 『百田ちゃん……ママには魅力が無かったのかしら……』 無理もない。 愛すべき人が妻である自分ではなく、しかもよりによって年頃の男子中学生を犯したのだから。 女性らしいことを嫌い家事はしない。 夜はアルコールに手を出し酩酊。 高いものを買ってストレスを発散しようとするも効果はなし。 加えて俺のことは一切気にかけない……夜見夏先生のところに行けるのはその為だ。 一応学費は払ってくれているが、教科書代・修学旅行費・お小遣いは自費だ。 バイトをしながらコツコツ貯めている。 だから唯一楽しめるのは学校と見夏先生の隣にいるときだけ。 逞と夕陽は本当に良い友達だし、いい先生にも囲まれている。 そして大好きな見夏先生に話しかける日常に、満足していた。 けど……ふと寂しくなる。 いや、寂しくて寂しくて死んでしまいそうになる。 母親も父親も失ったと同然だ。 逞はいい大学に進学するため、卒業したら会えなくなる可能性が高い。 夕陽は……夕陽は1年後、生きてるのだろうか……? 見夏先生は……見夏先生は、離れずにいてくれる……? そんな悲しいことを考えていたら、母親がゆっくりと身体を起こし、俺を無視してソファで横になる。 母親の寝顔を見ていると、端正な顔立ちは俺と似つかない──……あからさまに俺が父親似だということが分かる。 だから、だからなのかもしれない……。 この家族が狂ってしまったのは。 「……はぁ」 ──けど、人生で一度だけ母に、おねだりしたことがある。 当時俺が9歳、ちょうど8年前。 学校、いや小学生の間ですごく流行っていたゲームがあったのだ。 見夏先生と一緒にプレイした、あのゲームだ。 コマーシャルを何度も見て、ずっと欲しいとダメ元でお願いをして、手に入れたこのゲーム。 最初はすごく楽しかった。 ゲームをする機会が少なかったため、夜通したくさんプレイした。 だから気づいてしまった。 『飽きるのが怖い』と。 俺、見夏先生だけは……見夏先生だけは嫌われたくない。 本音を言うと母親にも呆れられたくない。 また昔みたいに愛してほしい。 お父さんなんかいらない、お父さんなんかいらないから……。 狂って止まった時計の針を誰が進めて──……。 父親の罰を受けているのはもっともだけど、これじゃああまりにも……まるで俺が悪いみたいで……。 ……死にたくなる。

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