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第4話
その夜、私は従者の少年によって体を磨き上げられた。だが、そこに衣服はない。唯一腰布だけをつけ、乳首には再びニップルチェーンをつけられた。
「さすがは王子、傷のない綺麗な体をしている」
現れたのはナストゥーフだ。値踏みするように全身を見回し、近づいてくる。まるで物を見ているような視線から逃れたくて、私は可能な限り壁際へと後退る。動く度、両足についた足かせがジャラジャラと音を立てた。
「逃げても無駄ですよ」
「何を……」
「仕込みをしろと言われておりますので」
仕込み?
疑問に思う間もなかった。ナストゥーフの指がニップルチェーンの先につく飾りを揺らす。飾りが振れるその動きに、私は息を殺した。
「感度は悪くないようですが、強情ですね」
「なっ、やめろ!」
「貴方は既に王子ではない。俺に命令をする事はできませんよ」
背が壁についてヒヤリとする。そして私の前に立つナストゥーフは更に、リングを指で回し、充血している乳首を引っ掻いた。
「んっ!」
「我が主は貴方を、男を受け入れるよう仕込めと命じたのです。抵抗せずに従った方が苦痛は少なくなりますし、楽しめますよ」
「だれが! ぁっ」
カリカリと表面を引っかかれ、痛みではない感覚がジワリと広がる。
この感覚は、なんなんだ? 女ではないのだから、感じるはずがない。私は……
不意にナストゥーフが体を折り、ペロリと乳首を舐め上げる。途端、不明瞭だった感覚は鋭敏に私に襲いかかった。抑えられない喘ぎ、背を掛けたゾクゾクとした刺激。これらを快楽だと、私は知っている。
「十分に楽しめておりますね。よろしい。気持ちよさだけを追ってゆけばいずれ楽になります」
「ふざ、け……っ、止めろ!」
尚も乳首を、立ち上がり始める乳輪を舌で舐められ、指で捏ねられる。言い逃れなどできない快楽に痺れながら、私は抵抗し続けている。力が抜け、壁に背を完全に預けたまま震えようとも、心だけは折れないと言い続けた。
「強情な方だ。苦しむのは貴方だというのに」
呆れた声でナストゥーフは言う。そしてより明確な快楽の証を私の眼前に晒した。
腰布を剥ぎ取られた私の股間に息づくもの。本来は金の繁みに隠されるべきものは、今や恥ずかしく覆うものがない。従者の少年により全て剃られてしまった。
芯を持ち始めた昂ぶりが情けなく揺れている。見下ろす視線の先、そこにある現実に打ちのめされ、引き裂かれるように苦しく、そして恥ずかしさに死にたくなった。
「乳首だけで溢しているのでしたら、十分に楽しめる体です。身を預けてしまいなさい」
「い、嫌だ……見るな!」
「承知しかねます」
「んぅ!」
ザラリとマメのある硬い手が敏感な男茎を握る。恐怖にビクリと体が震えた。
「怯えなくともいいですよ。今日のところは気持ちの良いことしかしません。まずは男の手で気持ち良くなれることを覚えていただかなくては」
言うが早いか、ナストゥーフの手が上下に扱き上げてくる。女性しか知らない私の体を弄ぶように、男の手が私を高ぶらせてゆく。
「はぁ、あっ……いゃ、だっっ」
「抵抗は無意味ですよ」
「止めろ!」
「却下です」
硬く完全に天を向く分身に、裏切られた思いがする。私の心は望んでいないのに、体はこんなにも反応をする。強弱をつけられ、知ったように弄ばれ、それに悦んで蜜をこぼす己の浅ましさに泣きそうになる。
透明な露が溢れ落ち、塗り込められてテラテラと照り光っていく。ナストゥーフの手も同じように濡れて、恥ずかしい音が微かに聞こえる。
それ以上に心臓の音がうるさい。喘ぐしか出来ない口を縫い付けてやりたい。
「いや、だ……ぁあ! 嫌だ止めてくれ! こんなのは私ではない!」
「貴方の体ですよ。随分と感じておられる。そろそろ、出そうではありませんか」
「違う! あっ、はぁぁっ、いやだぁぁ!」
カッと奥底が煮えてくる。解放を求めて駆け上がろうとしている。
駄目だ、止めてくれ。そんな姿を妻以外の誰にも……敵の男になど見られたくない。
だが願いは虚しいものだ。亀頭を擦られ、私は突き抜ける快楽に嬌声を上げ、吐精した。ビュクビュクと吐き出しながら、一時の気持ちよさに頭は痺れきり、心は悲鳴を上げた。敵の男の手によって上り詰め、その姿を、声を見られるという羞恥と屈辱に、ただただ涙がこぼれた。
大理石の床に白濁が散る。痙攣した内股に力が入らず、そのままズルズルと床に滑り落ちた。荒い息を吐きながら、絶望の目で全てを見ている。
その眼前で、やはりナストゥーフは物をみるような目を向けるばかりだ。
「今日はこの程度でいいでしょう。慌てても仕方のないことですから」
「…………せ」
俯き、口の中で呟く言葉。目に映るニップルチェーンの煌めきと、ツルツルに剃られた下肢。その股座でビクビクと未だに震える昂ぶりを見て、私は喉奥から絞り出すように口にした。
「殺せ……殺してくれ……」
死にたくないと願ったはずが、今はこんなにも消えてしまいたい。己の落ちる先を知り、どうして希望など持てる。男の手で快楽を教えられ、これが続く事を考えて、どうして身を委ねられる。
死にたい…殺してくれ……
その言葉だけが胸を埋めていった。
ナストゥーフの手が、ふわりと私の頭を撫でた。優しい動きに、視線を上げる。そこにある青い瞳に、初めて優しく温かな光を感じた。
「生きなければなりません」
絶望を口にしている男の、それはどこから出た言葉なのだろう。
分からぬまま、男が見せる初めての人らしい瞳と言葉に私はただ呆然と頷いたのだった。
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