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第6話
「帰りは明日になります。今夜はゆっくりとお休みください」
後ろを暴かれ、日々拡張を繰り返されて十日ほど。日に日に言葉を無くす私に、ナストゥーフは事務的に言って出て行った。
寝台に寝転んだまま、天井を見上げる。体がだるくていうことをきかない。
「アスラン様、お食事を」
「いい……」
ここ最近、食欲がない。何を食べても味を感じない。果物も好きだったはずなのに、喉を通っていかない。
「あの、水だけでも」
サリフの必死な声に背を向けた。喉も渇いていない。不思議と感じないのだ。
サリフを下がらせ、力の入らない体を横たえたまま。こうしているのが一番楽だ。体が熱いが、心が冷たい。まるで火が消えるように先細っていく。
自然と瞼が重くなっていく。あいつは何をしても眠る時間まで削ったりはしないのに。私を高ぶらせ、最後は優しく額に口づけをして、さっさと出て行く。
あいつの手で、私の体は変わりだしている。尻の中で快楽を感じるようになってきた。尻に指を突き入れられ、快楽のツボを探り当てられ、擦られ、押し上げられて心臓が飛び跳ねていく。拒もうと、お構いなしに。
気持ちいいと、体は貪欲にナストゥーフを受け入れていく。教えられるものを吸い上げていく。気持ちは一切ついていかないのに私の後ろはどんどん男を欲し、昂ぶりは触られてもいないのに天を向き、だらしなく蜜をこぼして尻の穴まで濡れそぼっていく。
こうして、私は男に抱かれるようになるのか。望む望まざるを問わず、いいように扱われる。
瞼が落ち、心は沈む。この眠りが永久に覚めなければよいのにと、夢の間際に私は願った。
懐かしい故郷の町に、私は立っていた。行き交う人は私に気付かずすり抜けていく。
私は夢を見ているのか? それとも魂が体を離れたのか?
もう、どちらでも構わない。この町並みの中、枷もなく自由に動けるのならなんだって構わない。
不意に目の前を、二人の少年が走りすぎていく。その姿に、私は「あっ」と声を上げた。
一人は私だった。幼い頃の私だ。
思いだした、これは私の幼い記憶に違いない。この頃私は町に出て遊ぶ事が多かった。王族の自覚もない、馬鹿で無邪気なただの子供だったのだ。
毎日のように町に出て、町の子供達と走り回って遊んだ。宮殿には遊び相手になってくれる人がいない。兄上はお忙しくて、私の相手などしてくれなかったから。
「――――、早く」
「待ってよ、アスラン」
先を走る私のあとを追いかける少年は、黒髪に綺麗な青い瞳をしている。子供の頃、彼とは一番の友達だったはずだ。
はず……だ。なのにどうして、思い出せないんだ? 名前すら……覚えていない?
走り回って、少し悪い事もして、大人に怒られて。それでも楽しかったはずだ。宮殿の果実を幾つか抱えて分け合って食べた。沢山話していた。
幼い自分は、本当に楽しそうに笑っている。心からの笑顔がキラキラと輝いて見える。
そして隣りにいる少年もまた、同じ顔で笑っている。
時が、流れていく。宝物の時間を送っていく。幸せそうだ。なのに私は不安に胸元を握った。
いけない、これ以上は駄目なんだ。頼む、止まってくれ!
なんでもない日常のはずだった。いつもと同じように彼と遊んでいる最中だった。
目の前に誰かが立って、私はぶつかった。見上げた先で、男が短剣を振りかざしていた。ギラリとした切っ先が太陽に煌めいたのを呆然と見上げた。私は、動けなかった。
「アスラン!」
少年の声、引かれた腕。散った赤は私のものではなかった。倒れたのは、黒髪の……
「ナストゥーフ!!」
『!』
悲鳴が起こり、人々が駆け寄り、逃げる男を誰かが取り押さえる。喧騒の中、私の思考は止まっていた。
ナストゥーフ……確かにそのような名前だった。少年の頃、一年くらいずっと遊んでいた友達。私を庇い……それから?
大人の腕の中、ぐったりと身を預ける彼の左目は真っ赤になっていた。子供の私はその輪に入る事すらもできず、狂った様に彼の名を呼ぶばかりだった。
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