9 / 14
第9話
ナストゥーフへの印象が変わった夜から、私は毎夜彼からの罰を受けている。指で、手で高められ、何度も達した。快楽に溺れながら、望みを口にしなかった。
あれ以来、ナストゥーフが私に口づけをすることはなくなった。抱きしめてくれる事もなくなった。高められ、教え込まれ、吐き出せば離れてゆく。
嫌になったのだろう。義務的に抱くのだって、もしかしたら……。
切なさに、ひっそりと泣く夜もあった。でもそれは、口にしなかった。これ以上嫌われる事が怖かった。
「私はいつ、お前の主に引き渡されるんだ?」
ある夜、私は堪らずに問いかけた。側にいることに耐えきれなくなっていた。
ナストゥーフは凍り付いた顔をしている。躊躇うように瞳を揺らしている。
私はにっこりと笑った。何となく感じていたのだ。本当はもうとっくの昔に、引き渡せと言われているんじゃないかと。時々、痛そうに体を折る時がある。それは折檻を受けたからじゃないのか。そんな風に、見るようになっていた。
「まだ先かと」
「私の引き渡しを渋って、殴られているんじゃないのか?」
凍るような瞳の色。こんな時に嘘をつけない。いや、一度仮面を暴いたからかもしれない。思えば仮面を取ったあの日から、ナストゥーフの無表情こそが作り物なのだと思うようになっていた。
「いいんだ、引き渡せ」
「できません」
「お前が痛めつけられるのを見る方が辛い。それに、今更私を庇う理由なんてないだろ」
お前は私が嫌いだろ?
「なぁ、ナストゥーフ。たった一度、我が儘を聞いてもらえないか」
「……なんでしょうか」
「私を抱いてもらいたい。スルヘ王子へと引き渡される前に一度、私を愛してくれないか」
恐れるようにナストゥーフが離れる。空いた距離が今の関係そのものか。
追った手は掴む事なく落ちていく。俯いて、唇を噛み、耐えた。
「いや、悪かった。忘れてくれ」
「アスラン様」
「すまない、今日だけは勘弁してくれ。私の体は、もう男を受け入れるように出来たのだろ。お前の役目も終わったんだ、無理に抱く必要はないだろ」
言葉もなく、背を向けられ、やがて去る。それを感じ、頬が濡れた。
ともだちにシェアしよう!