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第9話

 ナストゥーフへの印象が変わった夜から、私は毎夜彼からの罰を受けている。指で、手で高められ、何度も達した。快楽に溺れながら、望みを口にしなかった。  あれ以来、ナストゥーフが私に口づけをすることはなくなった。抱きしめてくれる事もなくなった。高められ、教え込まれ、吐き出せば離れてゆく。  嫌になったのだろう。義務的に抱くのだって、もしかしたら……。  切なさに、ひっそりと泣く夜もあった。でもそれは、口にしなかった。これ以上嫌われる事が怖かった。 「私はいつ、お前の主に引き渡されるんだ?」  ある夜、私は堪らずに問いかけた。側にいることに耐えきれなくなっていた。  ナストゥーフは凍り付いた顔をしている。躊躇うように瞳を揺らしている。  私はにっこりと笑った。何となく感じていたのだ。本当はもうとっくの昔に、引き渡せと言われているんじゃないかと。時々、痛そうに体を折る時がある。それは折檻を受けたからじゃないのか。そんな風に、見るようになっていた。 「まだ先かと」 「私の引き渡しを渋って、殴られているんじゃないのか?」  凍るような瞳の色。こんな時に嘘をつけない。いや、一度仮面を暴いたからかもしれない。思えば仮面を取ったあの日から、ナストゥーフの無表情こそが作り物なのだと思うようになっていた。 「いいんだ、引き渡せ」 「できません」 「お前が痛めつけられるのを見る方が辛い。それに、今更私を庇う理由なんてないだろ」  お前は私が嫌いだろ? 「なぁ、ナストゥーフ。たった一度、我が儘を聞いてもらえないか」 「……なんでしょうか」 「私を抱いてもらいたい。スルヘ王子へと引き渡される前に一度、私を愛してくれないか」  恐れるようにナストゥーフが離れる。空いた距離が今の関係そのものか。  追った手は掴む事なく落ちていく。俯いて、唇を噛み、耐えた。 「いや、悪かった。忘れてくれ」 「アスラン様」 「すまない、今日だけは勘弁してくれ。私の体は、もう男を受け入れるように出来たのだろ。お前の役目も終わったんだ、無理に抱く必要はないだろ」  言葉もなく、背を向けられ、やがて去る。それを感じ、頬が濡れた。

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