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第10話

 数日後、私は丹念に体を磨かれ、綺麗な衣服を着せられた。だが用意されたものは女物。あくまで女のように扱う、そういうことだろう。  そうして通された部屋に、ナストゥーフと共に男がいる。金の髪を刈り上げた若い男は私を見下す。 「その顔で俺と同じものがついているとは、未だ信じられないな」 「スルヘ……」  見た事のある憎い男の顔に、私は嫌悪を示す。こいつが私の領地を襲い、私を攫い、私をハーレムに入れようとしている。  睨み付ける私に加虐の視線を向けるスルヘは近づいてきて、首輪を掴み引き倒す。無様に転がった私の頭を足で踏みつけた男は、優越の笑みで見下した。 「スルヘ様だ、アスラン。身の程をわきまえねば身を滅ぼすぞ」 「だれが!」  お前を主と認める事はこの命尽きようともない。睨み上げれば腹を蹴り上げられ、吐き気と一緒に咳き込んだ。 「置かれた状況をまだ理解していないようだな。まぁ、いいだろう。今日はそれを教えにきたんだ」  スルヘは更に数度私の腹を蹴りつけ、元の位置へと戻っていく。付き従うナストゥーフは私を見ないようにしている。 「ナストゥーフ、席を外せ」 「……畏まりました」  一礼し、出て行く彼を追い、目を閉じる。見てもくれなかった。本当に全てが、離れたのだ。 「さて、アスラン。酒を注げ」 「飲みたければ自分で注げ」  お前の言いなりにだけは絶対にならない。睨み付け、吐き捨てる。青い瞳が苛ついたように歪み、近づいて首輪を引かれる。そうして引きずられて、私は奴の近くへと無理矢理連れていかれる。足枷がジャラジャラ音を立てている。  乱暴に柔らかなラグの上に放り投げられる私の上にスルヘは陣取り、いきなりズボンの上から股座を握る。変化のないそこを揉み込みながら、いやらしい顔で私を見下ろす。 「その強情がいつまで続くか、見物だ。こいつとおさらばしてもまだ、お前にその顔を出来るか楽しみだ」 「な……に?」  「こいつとおさらば」とは……まさか!  カタカタと震えそうになるのを、必死で堪えた。まさかこいつは、私を本当に女のようにしようというのか。  ニヤリと笑う加虐の笑み。スルヘは尚も私の股座を握る。心なしか、痛みを感じるくらいに。 「ハーレムに入れるのだ、当然だろう。ここを切り落とし、その顔に見合う体にしてやる。子を産めぬのだ、精々俺に奉仕するんだな。ハーレムで王の寵愛を失えばどれほど惨めか、同じ王族だったのだから知らぬわけがないだろ」  ゲスな笑みのまま、スルヘは私に去勢の方法を事も丁寧に語る。怯える私を楽しんでいるのは分かっている。だが、怯えずにいられるものか。男でも、女でもない何かになる。望んでいないのに、そのように体にされるのだ。  助けてくれ。心の中で叫んだのは、ナストゥーフの名だ。一番縋ってはいけない相手の名を私は叫びそうになる。  見てもくれなかった。この数日、私に会いにも来なかったのだ。あの夜が最後だった。 「なんだ、泣いているのか。しおらしい顔もできるじゃないか」  ペロリと舌が頬を舐める、総毛立つような嫌悪にその部分をそぎ落としたくなる。  ナストゥーフに触れられた時、最初は死にたくなるほどに嫌だった。それでも、ここまでの嫌悪だったか? 運命に抗いたくて拒絶しても、ナストゥーフ個人に対しての嫌悪は日ごとに薄れていった。そうでなければこんなに長い間、拒絶しながらも陵辱されることに耐えられはしなかった。  助けてくれ。それが出来ないなら、一刀の元殺してくれ。私はこの男に抱かれたくない。  悲鳴を上げ、動けないまま震えていた。  だがその時、突如大きな音が階下で響いた。 「何事だ!」  苛立ちと焦りを滲ませたスルヘが体の上からどける。  音は、更に激しく聞こえる。鉄の打ち合うような音に、怒号。誰かが、戦っている?  激しい音を立て、扉が蹴り破られる。そこに現れた壮年の将軍を見て、私は目に涙を溜めた。 「バルズィーン!!」 「殿下ぁ!」  牛の頭をも切り落とす大剣を構えた筋骨隆々の男がドカドカと入り込む。彼は間違いなく、私の国の勇将だ。白髪の混じる黒髪に角張った顔、無精ひげの男を見て、私の目には涙が浮かんだ。  突如腕を掴まれ引き立てられ、首筋に剣が当てられる。目に映る銀の輝きに動きを止められる。 「動くな! お前達の王子様が傷物になっても!」  スルヘが最後まで言うよりも早く、バルズィーンの背後から素早く黒い影が飛び出し、目にも留まらぬ速さで剣を弾き飛ばす。  私はその影を知っている。鋭い青い瞳に黒髪、そして銀の仮面の輝きを見間違えるはずがない。 「アスラン様!」  躊躇う事なく伸ばされる手を、私は取った。引き寄せられる強い力、抱きとめてくれる胸の厚さ。一切の躊躇いもなく受け入れてくれる事に、私は驚きながらも嬉しくて彼の服を握った。 「ナストゥーフ、貴様裏切ったな!」 「何を仰います、スルヘ王子。俺は貴方に忠誠など誓った覚えはありませんよ」  睨み付けながら怒鳴るスルヘがジリジリと後退していく。だがその背後に小さな影が立ち、短刀を突きつけた。 「サリフ?」 「ご無事でなによりです、アスラン様。助けが遅くなりまして申し訳ありません」  明るい声と同じ明るい笑みでスルヘを取り押さえた従者サリフ。目の前で起こる全てがあまりに急な展開で、私の頭はついて行かない。  ナストゥーフが私を腕に抱いたまま、取り押さえられたスルヘの前に来て一枚の紙を取り出す。知っている、冷たく感情のない青い瞳で見下ろしている。 「貴方の父、カドフィセス王からの手紙です。 王の許しなく隣国に攻め入るなど言語道断。よってその責は己の首で取るように。 とのことです」 「嘘だ! この事は父上も!」 「さぁ? 貴方の父王はそのように我々に説明いたしましたから、それ以上の事は存じ上げません」  押さえつけられながらスルヘは最初反論した。だがナストゥーフの言葉で力を無くし、やがて全てを悟って項垂れ、後は言葉もなく引き立てられていった。

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