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第3話

「―――尹先生、今宵はここで一緒に寝ても構いませんか?どうしても……一人になりたくはないのです」 「―――申し訳ありません。これから人と会う約束があるのです……今宵は無理ですが、またいつでも訪ねなさい。それと―――魄、貴方にこれだけは言っておきます。」 僕のそんなささやかな願いさえ―――目の前で優しく微笑みかけてくる尹先生は断ってしまうのだ。しかし、ふいに―――真剣な表情を浮かべた彼は、一緒に寝たいというささやかな願いを断られた事からくる悲しみのせいで肩を下ろしている僕の顔をじいっと見つめながら神妙な様子で言ってくる。 「……魄、何かを得る為には――何かを犠牲にしなければならないのです。そのためになら鬼にでもなる―――そのような強い心を持ちなさい。そして、自分が劣等種だから生きている価値などない、という愚かな考えは――今すぐ捨て去りなさい……私はずっと貴方の味方ですからね……それでは、おやすみなさい」 ―――そうして、僕は尹先生とは別れて――王宮内のとある場所へ向かうのだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 僕が尹先生と別れた後、向かった場所―――。 それは、王宮の中庭に存在する立派な桜の木の下だった。 此処にいると、嫌な事も怖い事も―――そして不安な事も全て忘れられる気がする。昔はよくここで、幼馴染の男の子と遊んだものだ。そんな幼馴染の男の子は―――ある日、忽然と僕の側から消え去ってしまい寂しく思っているのだが―――いずれにせよ、この場所が魄の癒しの場所である事に変わりはない。 「魄、魄―――やはり、ここにいたのじゃな!?」 「―――わ、王花様……いつの間に、私の後ろへ……!?」 「お主の後ろからついてきた訳ではない……この木に登って、ひっそりとお主が来るのを待ちわびていたのじゃ!!」 ―――僕が夜桜にうっとりと見とれていると、ふいに聞きなれた声が聞こえてきて、慌てて上の方へと目線をやると、そこには太めの枝に足を跨がらせながら無邪気に笑う王位継承者の王花様がいるのだった。

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