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第17話

◇ ◇ ◇ ◇ 「―――ふん、やっと気が付いたのか……魄よ」 「せ、世純……様……何ゆえ、此処に?此処は―――尹先生の寝所ではございませんか?」 「―――その通りだ、夜分にもが関わらず……大層な騒ぎがあった故な……」 次に目を覚ました時、目の前で僕の顔を覗き込んできたのは―――気を失ってしまう前に一緒にいた翻儒でも、護衛官の男でも―――もちろん王花様でもなく……何故か、黒守子の世純だった。 「わ、王花様……っ……そうだ、王花様は―――無事なのですか!?」 「…………案ずるな、王花様の命には別状はない。発見が早かった事もあるが、何よりもこやつが必死で看病したのもある故……。ただ―――」 「……ただ、何なのですか!?お願いします、教えて下さいませ!!」 「―――よかろう。だが、貴様の体と引き換えだ……と私が言ったら……どうする?そのくらいの覚悟がなければ、私が話そうとしているのは――到底受け入れられぬような事実だ。それでも、貴様は真実を聞くのを望むか!?」 その世純の口から放たれた言葉を聞き、僕は一瞬―――躊躇してしまう。其れほどまでに、王花様の容態は深刻なのか、と―――僕の隣に横たわり静かな寝息をたてている尹先生に聞こうとしたが、その疲れきった表情を見てすぐにそれは止めようと思いとどまった。 『何かを得るには―――何かを犠牲にする――そんな心も必要です』 尹先生から以前に、そう言われたのを思い出した。 「わ、分かりました……僕のこの体、世純様に……っ……」 と、震える声で言い終える前に―――ふいに御前会議の時に出会った燗喩殿の笑顔が頭によぎり思わず口をつぐんでしまった。

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