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第20話

◇ ◇ ◇ ◇ 『交わひ日誌 著 尹 ●●』 赤く装丁された本を一枚だけ捲ると、短いその言葉が書かれていたのだが、尹先生の後に続いている箇所は―――黒く塗り潰されていて、何という文字が書かれているのか分からないのだ。 しかし、僕は―――ふと、考えついた。 (交わひ、と書かれているという事は―――もしかしたら、この尹先生の後に書かれているのは……誰かの名かもしれない―――) そんな事を思いつつ―――僕は、捲り続ける。 『○月○○日 愛しい屍王様へ―――素敵な贈り物を頂き有り難うございました。これからも一生大事に致します』 『△月△△日 愛しい屍王様へ―――最近、滅多に此方へ来られぬのですね。あのこも―――寂しがっています。どうか、あのこと遊んであげて下さいませ―――以前のように――』 『●月●●日 愛しい屍王様へ―――もうこの日誌に綴る意味すらありません。肝心の相手である貴方様がおいでにならなくては続ける意味などありません。あの子が……父親である貴方を求めて泣いています――あの子――魄の母として―――私は胸が張り裂けそうな思いです―――愛しい屍王様、何故……貴方はこれを読んでも言葉を交わしてくれるのですか?何故―――私と私との間に生まれた子である魄に会いに来て下さらないのですか―――』 ―――バサッ!! 思わず、『交わひ日記』と書かれたそれを床に落としてしまうが、それすら気付かない程に、僕の心には様々な感情が、まるでころころと模様を変える万華鏡のように―――渦巻いていた。 世界中がぐるぐると回っていると錯覚する程の目眩がした――――。 後頭部を鈍器で殴られてしまったと錯覚する程の頭痛がした――――。 赤く装丁された単なる薄い本だと思い込んでいたのは、この国を纏める気高き屍王様と僕を味方だと仰ってくれた尹先生との―――愛が綴られた交換日記だったのだ。 (そ、そんな―――尹先生と屍王様が御身契りを交わした者同士だったなんて……しかも、しかも―――僕が死んだと聞かされ続け、会いたくて止まなかった父上が……まさか、屍王様だったなんて……そんな―――そんな事が――あるものか……) 衝撃的な事実に打ちのめされ―――ふらり、とよろけてしまいそうになる僕の体を、傍らにいて興味深そうに僕を見つめてくる世純が受け止めてくるのだった。

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