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第25話

「おやおや―――これはこれは、劣等種のΩの……何でしたかな、ああ、そうだ……魄とやらではないですか。お主、あの護衛官が池にて遺体で発見された際、世純様と共にいたそうだな……一体、何をしていたのだ……まさか淫乱なΩのお主が――世純様をたぶらかしたのではあるまいな?」 表面上でだけは冷静さを保ち丁寧な口振りで言ってくるものの―――僕に、わざとぶつかってきた守子は全身全霊で悪意を露にしつつ悪態をついてきた。 「ち、違いますっ……僕は―――世純様をたぶらかしてなど……しておりません」 「では、何ゆえ……世純様は―――お主にばかり構っておられる?お主にばかり、興味深そうな笑顔を向けられる?」 辺りに激昂したその守子の怒鳴り声が響き渡るが、周りの守子達は―――それを止める事によって自分にまで被害が加えられてしまうのを恐れているのか中々口を出せずにいる。 「み、眠赦(みんしゃ)殿……その辺で、気をお沈め下さいませ……」 「黙るがよい、お主には関わりのない事―――これは、我と―――世純様……そしてこの淫乱なΩの魄との問題なのですよ」 にこり、と微笑みながら眠赦と呼ばれた守子は―――言葉だけで彼を止めた隣にいる守子を制止する。言葉は冷静だが、やはり目は笑っていない。隣にいて制止した守子も―――その眠赦の静かな怒りを感じて、とうとう口を閉ざしてしまった。 「―――さあ、淫乱なΩで我がお慕いする世純様をたぶらかす……この白守子に仕置きを与える時間だ。そうだな、ここに土下座して我に謝るがいい……そして、二度と世純様に近付かぬ事だ―――」 ―――ぐり…… ――――ぐり、ぐり…… 何の感情も籠っていない恐ろしい目で床に這いつくばったままの僕を見下ろす眠赦。 それに対して、怯えながら見上げつつ――ガタガタと小刻みに体を震わせる僕の頭を眠赦は遠慮なく踏みつけてくる。 周りを見ても、誰一人として僕を助けようなどという素振りを見せる人間はいない―――。 深い絶望を感じてしまい思わず涙ぐんでその仕打ちに必死で耐えている時―――、 「―――貴様、こんな場所で……魄に何をしている!!」 ―――以前の軽々しい口調が嘘かのような威厳のある燗喩殿の声が辺りに響き渡ったのだった。

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