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第33話 世純の腹の中
「―――燗喩の事が……そんなに嫌い?」
あの全身黒衣の鬼は―――ある夜、公務終わりの私の寝所の前に立って待ち伏せしていた。そして、にこりと憎らしげな笑みを浮かべつつ―――まるで童のように甲高い声で尋ねてきたのだ。
「低身分の付き人ごときお前には……関係ないではないか――」
「あれれ、いつもは冷静な世純様が――怒りを露にするのは珍しいね……って事は、やっぱり燗喩の事―――快く思ってないんでしょ?彼に一泡吹かせたいって思っているんでしょ?」
―――黒子ではないが、確かにその時の私は冷静ではなかったのだ。奴の挑発に、まんまと乗ってしまうとは―――本当に私らしくもない。
だが、それは結果的には―――正解だったといえよう。無論、その時は知る由もなかったのだが―――。
「燗喩に……一泡吹かせる方法とは一体、何なのだ?」
「それはね――――」
ひそ、ひそと――――黒子が私の耳元で囁きかけ、私はくすぐったさに思わず身を震わせてしまうのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
まさか―――黒子が屍王様に本当に意見できる立場だとは。
だからこそ、あんなにもこの燗喩を貶める作戦に自信があったのか―――と感心したのと同時に僅かばかり黒子に対して恐怖を抱く。
奴を―――敵に回すべきではないと心から悟ったのは、黒子が悪賢いという理由だけでなく――奴の正体のせいだった。
全身黒衣で顔すら見えない奴の正体――――、
それは――――
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