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第34話 黒子の腹の中

―――それは、嘘偽りない吾の姿。 普段は全身黒衣で皆の目を騙せていても―――鏡の前でだけは、それは叶わない。 「―――また、あの夢……もう幾年も経っているというのに―――」 久しく過去の悪夢に魘され、吾は仕方なく布団から這い出ると―――そのまま黒い布で隠されている鏡の前で立ち尽くした。 ―――王花に瓜二つの雪のように白い長髪。 ―――王花に瓜二つの雪のように白い肌。 ―――王花に瓜二つの雪のように白く美しい顔。 吾は――――王花の身代わり。 吾は――――王花に何かあった時の代わりとなる単なる駒。 吾は――――王花に尽くす為だに元々住んでいた村から無理やり王宮に連れて来られた単なる生け贄。 それが――――吾の嘘偽りのない本当の姿。 ひび割れた鏡を直視しないように固く目を瞑った吾の瞼の裏に浮かんできたのは―――かつて村で暮らしていた頃に共に暮らしていた両親や姉上―――それに、吾にとって初恋である斗鬼(とき)という少年の―――眩しい笑顔だった。 それと同時に――――吾が燗喩に復讐したいと願う程に憎む原因となった悪夢が再び吾の頭を駆け巡るのだった。

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