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第40話

「――王花様……今宵も、貴方様が僕と運命の番になりたいと仰ってくれた夜のような……見事な三日月が夜空を照らしていますね」 「…………」 襲われた時のとてつもない衝撃と恐怖から心を壊されてしまった王花様は―――あれ以来、何も話す事はない。 瞳は常に虚空を見つめ、たまに目が合ったとしても――すぐに無言でふい、と虚空へと目線を移してしまう。 「王花様――――お願いです、また……僕を魄と、その澄んだお声で呼んでくださいませ……それだけで構わない……だから、どうか……どうか……」 「…………」 そんな僕の些細な願いさえ―――今は叶わない。 「―――己の罪とは……向き合えた?ああ、その陰気な王花の顔……お前が、そうさせたんだ……あの夜、お前が運命の番となるのを断った日―――王花は哀れにも泣いていたよ?」 音もなく―――いつの間にか牢屋の中に入っていた黒子によって、心を壊されてしまった王花様との二人きりの会話はぶつり、と途切れてしまう。 「ち、違います……違います……僕は―――王花様の願いを断った訳ではっ……ありま…せん……」 「黙れ……っ!!王花の願いを断ったのと同じだよ……直接、否定の言葉を申した訳ではないから断った事にはならない……だから罪ではないと言いたいの?それは、違う……問いかけを無視する事も充分に罪になる……そうだよね、吾のしもべ……翻儒よ――――」 「はい……黒子様の……仰る通りでございます」 激昂する黒子の隣にいるのは―――あろう事か、僕の幼なじみであり、かつて幼き頃に共に白守子として働いていた―――翻儒だった。 しかし、あの桜の木の側で襲われた王花様を発見した際に一緒にいた翻儒とは…まるで違い、目は伏し目がちで声もおどおどしており――何よりも今の彼は頑なに僕とは目を合わそうとしないのだった。

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