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第44話
◇ ◇ ◇ ◇
―――土臭く静かな牢屋の中で僕は久々に王花様の寝顔を見た。
以前は―――王花様が心を壊されてしまう前までは、彼はよく僕の寝所を訪れて……そのまま一緒に眠りについていた。
しかし、最近は―――王花様が僕の寝所へ訪れる事すらなかった。
僕が―――彼の望みに答える事すらなく無視してしまったせいだ。
僕が―――燗喩殿に恋心を抱いてしまったせいだ。
けれど、これだけは言える―――。
僕にとって、王花様も、燗喩殿も、母である尹先生も――幼なじみの翻儒も、皆かけがえのない大切な存在であり――そして、窮地に陥った時に救うべき存在なのだと。
―――精神を壊されてしまった王花様を今すぐに救うのは流石に難しい。
だが、幼なじみである翻儒と―――燗喩殿を救う事は僕にも出来る筈だ。
先ほど無言で牢屋を去ってしまった翻儒とは、幼い頃のように親しく接すればいい。小水を垂れ流したからといって―――決して、黒子のように無下になどしたりしないし――嘲笑うなんてもっての他だ。
今の――――【怒り】という感情を心に宿した僕ならば……世純と黒子によって嵌められて、いわれのない罪で何処とも知らぬ場所へと流刑に処された哀れな燗喩殿を救う事だって出来る筈なのだ。
(―――でも、燗喩殿が流刑に処された場所を……どのようにして探ればいいのだろうか……)
そんな事を、牢屋の床に敷かれたボロ布の上で横たわりながら寝息を立てる王花様の頭を優しく撫でつつ悶々と悩んでいる内に―――僕の頭の中に一つの考えが浮かぶ。
僕は、これからすべき事を明確に自覚すると固く手を握りしめ、ある決意をするのだった。
そうして、どんどんと夜は更けてゆく―――。
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