51 / 151

第52話

―――その時、 「世純様から離れて下さい――身分が低く、邪なあなた方が気高き世純様の御身に触れるなど……許しません。ほら、醜いあなた方は――これがあれば充分なのでしょう……分かったら即座にこれを拾って――ここから出て行きなさい」 ――チャリ、チャリン 唐突に、牢の中に余裕綽々な様子で愉しげに微笑みながら――世純を裏切った張本人の眠赦が入ってきた。そして、予想外の事態に目を丸くしながら動揺を隠せずにいる牢屋守の二人の男達に向かって、懐から取り出した麻布の中から何十枚かの銭を取り出すと、そのまま天井からぽた、ぽたと落ちてくる水滴のせいで湿っている地面にそれを落とす。 「……っ…………こ、このっ……」 「お、おい……眠赦様に逆らうのは不味い……いいから行くぞっ……」 牢屋守の男達のうち、一人は悔しげな表情を浮かべながら眠赦へと悪態を突こうとしていたが、もう一人の男がそれを止めるような言葉を言うと、そのまま、二人の牢屋の男は地面に落ちて散らばった銭を慣れた手つきで拾い上げてから脱兎の如く――牢屋から出て行ってしまった。 「…………ああ、ようやく二人きりになれましたね――世純様。お可哀想に、こんなに子犬のように震えて、まるで以前の黒守子であった 気高き世純様とは……別人のよう」 氷のように冷たい眠赦の手が――無防備となった世純の胸元を優しい手つきで撫で上げる。 「……な、何をしているっ……我に触れるな!!」 「世純様――我は、お可哀想な貴方様を慰めようとしているだけ――黒守子の身分も、その気高き尊厳さえも失ってしまった哀れな貴方様を救いたいのです……私の深い愛で。世純様……ずっとお慕い申してました……無論、罪人となられた今の貴方も私はお慕い申しております」 「き、貴様……どの口でそのような言葉を言うのだ――貴様の企みは……何なのだ!?」 先程の牢屋守の男達に両腕を縛られ身動きが満足に取れずにいる捕らわれの身の世純が、そのように尋ねると――眠赦は今まで愉快げに微笑んでいた顔から一度、笑みの表情を完全に消し去ると――それから少ししてから、再び口角をあげて、にやりと醜く笑うのだった。

ともだちにシェアしよう!