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第53話
「企みなどと――そのような言葉は申しあげないで下さいませ。私は何もやましい事など考えておりませぬ。ただ私は――貴方様と一つになりたいだけでございます。貴方様の象牙のように滑らかで美しい肢体も、その麗しいお顔も、そして野心芽生える高貴な魂でさえも……私は貴方様の全てが欲しい。それ故に、愛おしい貴方様とある取引をしたいのです」
「な、何を……血迷ったのか――貴様……我を裏切った貴様が――取引をしたいなどと……そのような言葉は聞きたくもない!!」
――喚きたてる世純の唇を、ふっくらとした形のよい唇で眠赦は有無を言わさずに重ね、そして塞いでしまう。
「……ああ、夢にまで見た貴方様との口吸いを出来るなんて光栄でございます――世純様。取引の件ですが――もしも私と一つになると約束してくれるのであれば、貴方様をこの暗いじめじめとした鬱陶しい牢屋から出してさしあげましょう――無論、屍王様からの許可の言葉が述べられた書状も此方にございます。さあ、一言……一言でよいのです……私と一つになって頂けますか――世純様?」
「…………」
世純の心は揺れる――。
火の灯った蝋燭が風に吹かれて消されまい、と揺らめいているように揺れている――。
このまま、眠赦の言う通り――黒子に対して誓った愛を捨てて【地位と栄光】を取り戻すか、それとも――眠赦の言葉を受け入れずに今は姿なき黒子との【純粋な愛】を身や地位を捨ててまで守りきるか。
――世純は暫しの間、悶々と悩み続けるのだった。
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