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第54話
「裏切り者の貴様と、この身も魂も一つになるなど……御免だ。我が……この身も魂を捧げるのは……貴様ではない……」
「その先は何を仰りたいか、分かりますよ――世純様。貴方がその気高き身と魂を捧げたいと願うのは黒子様に対して――ですよね。ずっと貴方様をお慕い申しておりましたから――すぐに分かりました。ですが、そんなのは決して許されない事でございます。」
と、そこで眠赦は――警戒心を抱ききっている世純さえ思いもよらないような大胆な行動に出る。
穏やかに微笑みかけながら、懐から小刀を取り出すと――ゆっくりと身動きが満足に取れない世純へと近付いていき、その鋭く光る切っ先を
首筋へと突きつける。
――その際、世純の剥き出しになった白く妖艶な首筋から真っ赤な血が僅かに流れ出る。
「貴方様が私の申し出を受け入れないと仰るのなら――貴方様を手にかけ、私も共に貴方様の元へと行きます……さすれば、貴方様と共に一つになれる……世純様、どうかお覚悟を――」
「な、何を……き、貴様……本当に血迷ったかっ……!?」
――絶体絶命の危機を迎えた世純は反射的に叫ぶと、己の左胸めがけて迫ってくる小刀の切っ先に恐怖を抱くと、そのまま為す術もなく目を固く瞑った。
「……っ…………?」
――ドンッ!!
その時、唐突に―――何かを突き飛ばしたかのような音が恐怖で震えるしかない世純の耳に入ってきた。
おそるおそる開いた世純の目に飛び込んできた光景――それは、いつの間に入ってきたのか我を失った眠赦を勢いよく突き飛ばす魄の姿だった。魄の側には何者かに襲われて正気を失い、心を壊されてしまった王花様の姿もある。
「……うっ……ぐっ…………!?」
突き飛ばされて倒れてしまった場所には大きめの石が落ちており、そこに後頭部を打ち付けてしまった眠赦が苦し気に呻き声をあげ、やがて――その声が唐突に聞こえなくなった。
「……み、眠赦……眠赦――!?」
急に眠赦の声が途絶えた事に対して慌てふためいている世純を余所に――彼を突き飛ばした魄は妙に冷静だった。
「……世純様――貴方様にお願いがあります。燗喩殿を――流刑した場所は何処でございますか?」
――今までの妙に頼りなく情けない表情とは違う【鬼の形相】を向けながら、魄は未だに動揺を隠せずにいる世純へと冷静に尋ねるのだった。
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