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第56話
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あの暗く、じめじめとした牢屋で――世純様の部下だった眠赦様の命を奪ってしまった事は、全てが終わりを告げて暫く経った今でも心の底から申し訳なく思っている。
全てが終わりを告げた後、数年間は――私は牢屋に捕らわれて罪を償った。しかし、どれだけ牢屋の中で既にこの世におられない眠赦様に謝ろうとも、牢屋で過ごす年期を終えようとも、私の気分が晴れる事などない。
おそらく、これから一生――その事に対しての罪悪感は完璧には拭えきれないのだろう。
――しかし、あの時は……ああする外なかったのだ。
――そんなものは言い訳に過ぎないかもしれないが、燗喩殿を救いには……ああするしかなかったのだ。
『大事な者を救いたいと願うなら――心を鬼にしても救いなさい。そのためには、犠牲が必要なのです――そのためならば鬼にもなりなさい』
――今なら、あの時の母上の言葉の意味がよく分かる。
そう思いながら、私は隣でスヤスヤと寝息をたてながら眠っている燗喩殿以外にも大事に思っている存在の――林檎のように赤らんでいる頬を優しい手つきで撫でる。
―――この子を眠りを妨げてはならない。
あれから私が如何にして燗喩殿を救う事が出来たのか――それをこれから此処に記すとしよう。
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