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第59話

◇ ◇ ◇ ◇ 「……逆ノ目廓――まで」 今まで貯めに貯めた――なけなしの御給金を船着き場の船頭に渡して、なるべく小声で行き先を告げる。 僕と王花様は――何とか警護人の蛇のように険しい目をかいくぐり、二人で支え合いながら桜の木に登るとーー無事に王宮外へと脱出できた。 しかし、決して油断は出来ないため――なるべく足音を立てないように、それでいて急いで世純様が教えてくれた船着き場へと向かうのだった。 「…………」 「…………」 船頭は訝しげな表情を此方へ向けたものの、そのまま無言で船代を少しだけ乱暴に受け取り、黙々と舟を漕ぎ始めた。ちゃぷ、ちゃぷと――水音が響き渡る。夜の海というのは初めて目にしたが、そのまま吸い込まれてしまいそうな程に――辺り一面が闇に覆われていて、あまりの不気味さに思わず身を震わせてしまう。 「……おめえら、逆ノ目廓で新しい花魁として働くんか?」 「えっ……ち、違います……僕達は……」 唐突に船を漕ぐ手を止め、此方に顔を向けた船頭の目が好奇に満ちていて、どことなく嫌な感じを抱いてしまった僕は慎重に言葉を選びつつ答える。 しかし、船頭は僕の言葉には納得していないらしく――にやり、と下品な笑みを浮かべながら僕の隣にぴったりとくっついている王花様の体へと手を伸ばしてくるのだった。

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